・3 クレオソート油×化学物質過敏症|危険性の認識なし→過失なし
床に使用する接着剤に『クレオソート油』が含有されていたという事例です。
クレオソート油から化学物質過敏症が生じた,と主張されました。
<クレオソート油×化学物質過敏症|危険性の認識なし→過失なし>
あ 事案
施工会社がシステムキッチンの設置工事を行った
漏水が発生した
施工会社は,雑排水が染みた土台などに,防腐剤を塗布した
防腐剤に含有されるクレオソート油から大量の化学物質が室内に揮発した
居住者が化学物質過敏症に罹患した
い 裁判所の判断|因果関係
次の2つの因果関係を認めた
居住者の『化学物質過敏症の罹患』と『クレオソート油の塗布』
う 裁判所の判断|過失
ア クレオソート油の缶の注意書き
一時的な頭痛等や吸引自体による直接的な神経症状を来す内容であった
化学物質過敏症・慢性的疾患の罹患については記載がなかった
→施工業者は結果を予見できなかった
→過失を認めなかった
え 裁判所の判断|結論
施工会社の責任を認めなかった
※東京高裁平成15年5月20日
1 化学物質過敏症×法的責任|基本的構造
本記事では『化学物質過敏症』の法的責任の内容・判断プロセスについて説明します。
まずは法的責任の基本的構造をまとめます。
<化学物質過敏症×法的責任|基本的構造>
あ 被害の発生化学物質により人に健康被害が生じた
い 当事者
原告=被害者
被告=化学物質の製造・排出主体
う 法的責任;請求内容
不法行為に基づく損害賠償請求
これは基本的な法律構成です。
特殊事情に基づく法律構成については判例の紹介の中で説明します。
判例については別記事でまとめています(リンクは末尾に表示)。
2 化学物質過敏症|法的責任|主な争点=因果関係・過失
化学物質過敏症による法的責任の追及プロセスにおける主な争点をまとめます。
つまり『見解の相違が生じる事項』の典型的なものです。
<化学物質過敏症|法的責任|主な争点>
あ 症状・病態の存在の有無
い 因果関係
住居その他の建物における化学物質への暴露と症状との因果関係
う 過失
施工業者・売主サイドの過失の有無
え 損害=健康被害の範囲
ア 現存している短期的・単独の症状
イ 長期間の慢性的病態=化学物質過敏症
それぞれの内容については後ほど説明します。