・10.4.3. 空間測定機関・相談機関
一般に民間測定機関では、主に作業環境測定、水質調査、石綿含有検査などを業務としていますが、シックハウス症候群に関連する室内空気環境測定を行っているものもあります。
設定されている料金を支払って特定の室内空気の測定を依頼することになりますので、あらかじめ十分に相談した上で、必要性を明確にして測定を依頼するのがいいでしょう。
また、シックハウス症候群が社会問題になり、健康な室内環境の実現が健康に生活するための基本的な事項であるとの認識が広まる中で、シックハウス症候群に関する啓発活動、相談活動を行う NPO 法人もいくつか設立されています。
10.4.4. 医療機関
シックハウス症候群の症状を訴えた人が最初に相談するのが多くの場合、医療機関になります。
しかし、一般的に医療機関では症状をなくすための根本的な治療は難しく、症状を一時的に抑えることが中心になります。
したがって、発症した人が室内環境を原因と認識している場合には、医療機関を受診することなく、室内環境改善に向けて具体的な対策を進める方向で動いた方が解決は早くなることもあります。
10.4.5. 産業保健総合支援センター
主に職場で発生したさまざまな安全衛生の問題の相談に対応するために各都道府県に設置された(独)労働者健康安全機構の機関です。
産業保健の各分野の専門家を相談員として登録していています。
もちろん、オフィスで発生したシックハウス症候群対策についても相談にのります。
ただし、全都道府県に室内空気環境の専門家が配置されているわけではありませんので、あらかじめ相談内容を電話で伝え、対応について確認しておいた方がいいでしょう。
従来50 人未満の事業所からの相談については地域産業保健センターと呼ばれる機関が担当していましたが、平成 26 年度からこれら2 つのセンターは一元化され、事業所規模に関わらず相談に応じることになっています。
但し、あらかじめ、相談体制や訪問回数等のサービス内容に留意する必要があります。
10.4.6. 労働衛?コンサルタント
職場での労働衛生管理などに関する相談に応じて、対策などを提案する国家資格の専門職です。
保健衛生と労働衛生工学という2 つの分野に別れています。
保健衛生分野は医師、保健師などの医療職、労働衛生工学分野は工学系の技術職が多くを占めています。
シックハウス症候群に関しては症状に関する相談は保健衛生分野のコンサルタントが、換気システムなど工学的な対策に関する相談には労働衛生工学分野のコンサルタントが主に対応します。
多くの労働衛生コンサルタントは個人開業の形態をとり、事務所を開設しています。
10.4.7. 自治体教育委員会
地方自治体の教育行政機関で公立学校の教育に関する様々な業務を執行しています。
園児、児童、生徒の保健、教育機関の環境衛生も主要な職務の1つになっています。
公立学校で発生したシックハウス症候群の問題では 10.4.2.に示した地方衛生研究所などと連携して室内空気環境測定を行い、問題解決に向けて具体的な対策を行うことができます。
10.5. 医療機関の役割
シックハウス症候群でしばしばみられる症状を感じた場合に最初に相談先になるのが、医療機関となることが多いようです。
訴えはいわゆる不定愁訴で、シックハウス症候群を疑わなければ対症療法を行うだけですませることもしばしばありますが、シックハウス症候群の場合にはそのような対応では症状はよくなりません。
診察した医師が問診の中で室内環境が原因であることが聴き取れるかが診断のポイントになります。
本人が受診時に症状と室内環境との関連を訴えれば、シックハウス症候群の可能性を念頭に置いて問診を進めることになりますが、患者自身が室内環境と自らの症状との関連に気づいていない場合には、診断に至ることは難しくなります。
粘膜刺激症状、頭痛、頭重など、耐え難いとはいえないものの、表情などに深刻さが見られる場合には室内環境との関連に関わる問診ができるかどうか、特に問題になる建物、室内を出た場合に症状が改善するかどうかを聴き取ることは特に重要です。
担当医師の問診が不十分でシックハウス症候群の可能性を考えることなく、漫然と内服薬などによる治療を続けることになれば、問題の解決にならないばかりか、症状の重症化、抑うつ傾向が現れるなどの問題が加わることにもなり、本人にとっては生活の質(Quality of Life: QOL)を下げることになってしまいます。
10.5.1. 住宅の室内環境との関連が疑われる場合
住んでいる住宅の室内環境に問題があることが疑われる場合には、それが新築であるか、すでに長年住み続けているのかという点もシックハウス症候群の原因を考える上では重要です。
すでにこれまでの疫学調査で明らかになっているように、シックハウス症候群の訴えは、アトピー性皮膚炎、花粉症などのアレルギー性疾患を持っている人でより多く見られますので、既往歴としてのこれらの疾患の有無もポイントになります。
長年住み続けている家で最近になって室内環境と関連を持った症状が出ている場合には、その住宅での住まい方、メンテナンスなどに問題があることも考えられます。
治療として一般に行われるのは症状に応じた対症療法をしながら経過を観察するというものです。
しかし、シックハウス症候群そのものは医療機関が治療を行えば、快方に向かうというものではありませんので、患者さんはドクターショッピングに走ることも珍しくありません。
また、症状がよくならないことへの不安から、過呼吸、不眠などの症状を呈することもあり、メンタルヘルス不調者、うつ病、不安障害などの精神科領域の疾患として、さらに女性の場合には更年期障害として治療されていることもあります。
10.5.2. 外来診療でのアドバイス
診療所の忙しい外来診療の中で、時間をかけた室内環境に関する問診をしている時間はあまりないと思われますので、上記のポイントになる問診で、室内環境の関連が考えられた場合には、その旨を患者さんに伝え、室内環境を見直して、症状との関連についてより注意深く、検討してみることをアドバイスすることができれば、回り道をすることなく、問題解決へ向かうことができることでしょう。
医療機関は、個々の発症者にとって最初の相談先であることが多く、重要性は高いといえます。
対応する医師は不定愁訴を聴いたら、シックハウス症候群もその原因の候補として検討の対象にすることが求められます。
10.5.3. 学校・職場の室内環境との関連が疑われる場合
しばしばみられるのは、学校や職場でリフォームや新築が行われたのを機に、症状が出現するという経過です。
例えば本人が職場や学校にいるときに限って粘膜刺激症状を訴える場合には、最近新築、改修、塗装などの工事が職場・学校或いはその近辺で行われたかを聴き取り、それがあればかなりシックハウス症候群の可能性が高くなります。
そのような場合には、主治医として問題解決に向けたアドバイスが求められます。