・第Ⅴ部 症状の訴えへの対応
第 10 章 症状の出た住宅や職場
などへの支援(相談への対応)
第 10 章 症状の出た住宅や職場などへの?援(相談への対応)
10.1. 相談を受ける際に注意することここでは保健所など地域保健機関の担当者が、室内環境に関わる体調不良に関する相談を受けるという場面を想定しています。
10.1.1. 相談者の?的、要求を明確にすること
相談に来られる方々は、漠然とした体調不良を訴え、何とかしてこの状態を元に戻したいという強い気持ちを持っています。
相談することで事態が改善するのではないかとの期待は大きいと思われます。
また、すでに自身で様々な交渉や、原因追求のための活動をされた上でそれでも解決への道が拓けず、困り果てた上での相談という場合もあることでしょう。
また、自身の体調不良が室内環境によるものと考えて相談に訪れているはずですが、実際の原因は他のものが関連していることもあるかも知れません。
相談を受けるにあたり、的確で無駄のない対策につながるような助言をするためには、相談者に共感しつつ、話を聞くことはもちろん大切ですが、相談者の話す内容から問題点を整理し、全体像を迅速かつ正確に描き出すことが求められます。
そのためにはシックハウス症候群に関するある程度の知識とこれまでの解決事例、失敗例に関する経験の蓄積、それぞれの地域の実情に応じた対策依頼先などについて十分な知識とネットワークがあることが望ましいと言えます。
本マニュアルの内容を理解するとともにシックハウス症候群に関する地域の実情も把握しておくことで、相談者にとって満足の得られる対応が可能になります。
また、相談者の目的も可能な限り聴き取っておくことが望ましいと考えられます。
単に自身の症状の原因を知りたいというだけでなく、提訴や労災申請など、検討している法的措置の準備としての相談もあるかも知れません。その場合は保健所などの公的機関の相談対応にあたる者の発言は重みをもって受け取られることにも注意が必要になります。
10.1.2. 聴き取り必須項目
a. どのような症状か?
本マニュアルではシックハウス症候群の症状について詳しく書かれています。
例えばシックハウス症候群の症状として代表的なものに眼・喉が痛い、鼻水が出る、くしゃみが出るなどの粘膜刺激症状があります。
また、皮膚への刺激症状ともいえる皮膚が赤くなる、かゆみ、乾燥などがあり、さらに頭痛、頭が重い、吐き気、めまい、集中力低下などの精神・神経症状がありますが、それらのうちどの症状がみられるかを明らかにしておくことは、単にシックハウス症候群に典型的な症状を持っていることを確認するだけでなく、シックハウス症候群以外の疾病が隠れていないかを考える上で重要になります。
b. いつから発症したのか?発症の原因となったイベントは?
シックハウス症候群は環境から受けた刺激によって発症するものですから、新築住宅への入居後、職場や学校で行われた新築・改修後からの発症が一般的です。
相談者の多くはすでに新築、改修などの後に現われた体調不良についての相談であることを理解して、相談機関を訪れているはずですが、中には第 10 章 症状の出た住宅や職場などへの?援(相談への対応) 10.1. 相談を受ける際に注意することシックハウス症候群に対する理解が乏しい場合もあるかも知れません。
対話を進める中でシックハウス症候群への理解に疑問が感じられる場合は、改めてその定義などについて確認することも必要です。
さらに、シックハウス症候群の発症には新築、改修、塗装、換気不良の部屋の使用など、発症の原因を思わせる何らかのイベントが起こっているのが普通です。
イベントと発症との時間経過も聴き取りのポイントになります。
但し、住宅のメンテナンス不良を原因とする場合などはそれがはっきりしないこともあります。
c. 症状が強くなるのは、よくなるのはどのようなときか?
シックハウス症候群の定義の中で重要なものの一つは原因となる室内環境にさらされると症状が現れ、その室内から出ることにより、症状が改善するというものです。
特に問題のある室内から退出することで症状が軽くなるか、症状そのものがなくなるという変化は重要で、このような特徴がみられなければ、訴えている症状がシックハウス症候群であることに疑問が出てきます。
建物や室内へ出入りに伴う症状の変化はしっかりと確認しておくべき最重要事項と言ってもいいでしょう。
d. 室内における化学物質の使用
一般住宅でも様々な化学物質が使用され、それらがシックハウス症候群の原因になることもあります。
例えば、殺虫剤、防虫剤、芳香剤、ワックス、マニュキア落とし、染み抜きなどがありますが、これらの使用状況もシックハウス症候群の原因を考える上で重要な情報です。
疑いが強いと思われるものがあれば、さらに詳しい情報を聴き出すことが必要になります。
e. 暖房器具・設備について
暖房器具の中には排気を室内にそのまま排出するタイプのものがあります。
このような暖房器具は時々換気をしなければ、室内空気質は悪化していきます。冬期の室内空気環境に及ぼす影響は大きく、症状発症の時期によっては重要な情報になります。
f. 住宅内での?活習慣
シックハウス症候群は新築住宅に発生するとは限りません。すでに述べたように最近はむしろ住宅のメンテナンスや生活習慣にある問題がシックハウス症候群の原因になることがわかっています。
下記の「住み続けた住宅の場合」に列記したシックハウス症候群発症に関連する様々な生活習慣についても一つ一つ確認することによって、症状の原因が明らかになることもあります。