・9.3. 室内空気質汚染のリスクコミュニケーションの留意点
9.3.1. 知識の問題
前節で紹介したシックハウス症候群に関するインタビュー調査の結果から、一般市民の知識状況にはいくつかの特徴が見出されました。
調査のサンプル数が少ないため、結果をただちに一般化することはできませんが、多くの市民が示すと予想される反応や回答として、下記のようにまとめることができます。
① シックハウス症候群は「新築の問題」と考える傾向がある。
なかには、10 年ほど前に話題になったが既に解決した問題と思っていた、という回答もあった。
② 原因や発生源としては、多くが壁や床などの内装とそこで用いられる塗料や接着剤(化学物質)を連想している。
壁や床など目につく場所に原因を求める傾向があるといえる。
③ アレルギー症状の経験者は、壁や床からの「臭い」を気にする傾向、室内に化学物質が存在しているかどうかを「臭い」を手がかりに判断する傾向がある。
④ アレルギー症状の経験が本人または家族にある場合は、ダニやカビもシックハウス症候群の原因であると考え、室内の換気や結露対策をこまめに行っている傾向がある。
⑤ アレルギー症状の経験があると、経験がない人に比べてシックハウス症候群の原因や症状についての知識は豊富だが、自らの経験に基づく知識であるため、知識の範囲や質に偏りも見られる(自分が経験のない症状には言及しないなど)。
⑥ シックハウス症候群の問題は多くの対象者にとって緊急に解決しなければならない問題ではないが、そうした問題があることはよく認識しており、特にアレルギー症状の経験がある人は自分の問題として事あるごとに考えている。
⑦ アレルギー症状の経験がある人も、経験のない人も、テレビやネットがおもな情報源である。
症状が出た場合の相談先としては病院を挙げる人が多かった。
実際に、アレルギー症状でかかりつけの皮膚科や耳鼻科がある人もおり、医師から情報を得ているが、医師からは対症療法的なアドバイスが多い印象であった。
アレルギー症状の経験がある人のなかには、自宅の改装や新築の際に、業者にシックハウス対策の相談をしたり、広告を参考にしたり、業者から具体的なアドバイスを得たことがある人もみられた。
以上のように、シックハウス症候群にある程度関心のある人々のなかでも、その知識には多かれ少なかれ偏りがあるため、何らかの症状を経験しても、住居が新築ではない、室内では「臭い」がない、ダニやカビが原因とは考えていない、といったことから、室内環境に原因を求めず、なぜそのような症状が生じているか因果関係の推測を誤ったり、適切な相談先に相談しないなど対応が遅れる可能性がある点に注意が必要といえます。
また、アレルギー症状の経験者の多くは経験がない人に比べ、知識は豊かで自分なりの解決法を持っていますが、その知識は自らの経験と強く関連しているため、ときに偏りがみられることもあります。
対策については、テレビやネットの情報に加え、業者の情報(広告)が情報源となっている場合もあり、必ずしも科学的な根拠にもとづくものとは言えない方法をとっている可能性もあります。
こうした受け手の多様な知識状況、ニーズをふまえた情報提供が必要です。