99;科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂版) | 化学物質過敏症 runのブログ

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9.2.2. 室内空気質汚染にかかわるリスク認知の特徴(化学物質について)

シックハウス症候群のリスク認知を調べた研究はこれまでのところ国内外であまり報告がないため、ここでは、化学物質の健康リスクの認知に関する先行研究の結果をもとに、その特徴をまとめます。
化学物質(perchloroethylene: PCE)のばく露影響についての知識とリスク認知化学物質ばく露による健康リスクに関して、国外では、ドライクリーニングに用いられるperchloroethylene: PCE/テトラクロロエチレンのリスク認知に関する研究報告がいくつかあります23-26)。

テトラクロロエチレンは主にヨーロッパでその有害性が指摘されながら、特に小規模のクリーニング業者で使用され続けている物質です。

これらの研究報告では、ドライクリーニングの作業従事者の PCE/テトラクロロエチレンの健康リスクに対する認知の特徴が明らかになっています。

これらの報告において共通して確認されている知見を次のように要約することができます。
① 作業従事者の化学物質の健康リスクに対する関心は高く、危険性もある程度認識している。
② ばく露による急性影響(頭痛、ふらつき、発疹など)については自ら体験していることが多いため、その症状やリスクは具体的に理解している。
③ 作業従事者は PCE ばく露の長期的影響に関心を持ちながらも、具体的にどのような影響があるかについては知識が不足している。

実際には慢性的な健康リスクについてはあまり信じていないようであるが、自分も含めて身近に被害を受けた者がいないからなど、不確かで誤った仮定に基づく判断である。
④ 公式のリスク情報は難しく理解できないという理由であまり参考にせず、自らの経験や同僚の体験談などに頼る傾向が見られる。自ら健康影響の経験があると、長期的影響の不確実性も減らしたいという要望をもつようになっている。
⑤ リスク管理者の発信するリスク情報はあまり信用していない。
これらのリスク認知は、多くの点で専門家の見解と異なっています。

急性影響として専門家は皮膚炎を重視し、慢性影響としては中枢神経抑制、肝臓や腎臓への影響、記憶障害を重視し、生殖系への影響と発がん性の可能性についても言及していますが、作業従事者がこれらの具体的な健康影響に言及することはありませんでした。
一方、作業現場には、専門家の想定を超えるリスクが存在している現状も明らかになりました。

専門家が考える以上に、現場の作業従事者はさまざまな作業工程のなかで広く PCE にばく露する経験をしており、また手袋の装着など推奨されるばく露対策は、作業従事者にとっては面倒で作業の妨げになることから、ほとんど実践されていないことが、調査の結果わかっています。
現場でのリスクコミュニケーションの担い手であるはずのリスク管理者はあまり信用されておらず、マニュアルを通して提供されるリスク情報も、マニュアルの難解さから、十分に伝わっていないようでした。
これらの調査結果から、多くの作業従事者は、具体的な危険性の経験がないとリスクへの関心をあまり持たず、さらに現場でリスク情報に関するコミュニケーションが不足していると、作業従事者は適切なリスク情報をもたずにリスクのある作業を行ってしまうといえます。

現場の作業従事者は、現場の作業工程に即した具体的な予防策を求めていました。

また、安全行動の重要性は理解しても、現場で実践するには制約が多いなどの理由から、行動を変えようという意識にはつながらない傾向も指摘されています。

専門家には、現場の複雑な作業工程に即した、有効な予防策を提案し、それを現場での行動変容につなげていくための包括的なアプローチを継続していくことが求められます。
一方、クリーニング利用者の PCE に対する関心は非常に低く、ドライクリーニングの作業過程を知らないために、そもそもなぜ PCE が問題であるかを理解するのが難しいようでした。