96;科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂版) | 化学物質過敏症 runのブログ

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第 9 章 室内環境汚染の
リスクコミュニケーション 
第9章 室内環境汚染のリスクコミュニケーション
9.1. リスクコミュニケーションの考え方
9.1.1. リスクコミュニケーションの定義と理念
第 9 章では、室内空気質汚染のリスクコミュニケーションの問題を取り上げます。わが国においてリスクコミュニケーション(Risk Communication)という用語が使われるようになったのは1980 年代に入ってからです。

それ以降 30 年ほどの間に、自然災害や疾病、科学技術に伴う危険性など様々なリスク事象を対象とし、実践的な取り組みも含め数多くの研究が行われ、その用語も広く知られるようになってきました。
リスクコミュニケーションは「人、機関、集団間での、リスクに関する情報や意見の相互的な交換の過程」1,2)と定義されます。

科学技術をはじめとする多くの事象は利便性と同時に危険性をともないます。
そのような事象の「ポジティブな側面だけではなく、ネガティブな側面についての情報、それもリスクはリスクとして公正に伝え、関係者が共考しうるコミュニケーション」3)であると考えられています。
これらの定義において重要なのは、リスクコミュニケーションは専門家から一般市民への一方向の情報提供にとどまらず、双方向のコミュニケーションを通じた、リスクの理解と問題解決のための協調のプロセスであることが明示されている点です。

このような定義の背景には、社会の変化、そしてリスクに関する情報をめぐる考え方の変化があります 2)。

かつて、リスクに関する情報は専門家が占有し、専門家が重要な決定を行い、その分析結果や決定は一方的に一般市民に伝えられるのが当然のことと考えられてきました。

そこには、リスクについて知識のない一般市民に合理的な決定はできないという前提があったといえます。

一方、リスクコミュニケーションには、リスクに関する情報の共有、自己決定、社会的な合意形成など民主主義的な意味合いが強く含まれています。

多くのリスクの問題は複雑であるため、専門家が持っている情報が全て正確であり、専門家の決定が全て合理的であるという保証はなく、私たちにできるのは、リスクの情報を専門家や市民など関係者が共有したうえで、より多くの関係者が納得できる合意点を見出す作業を丁寧に進めていくことであるという考え方です。

この点は医療場面でのインフォームドコンセント(十分に説明を受けた上での合意)の理念にも通じるといえます。
リスクコミュニケーションの?的と戦略
リスクコミュニケーションが行われる目的と戦略としては、一般的に次のように整理されています4)。
このような指針を参考に、目標と戦略を具体化することで、リスクコミュニケーションの効果をより高
めることができると考えられています 2)。
① リスクやリスク分析、リスク管理について人々をよりよく教育すること。
② 特定のリスクについて、またはそれらを低減するための行動について、人々に十分に知らせること。
③ 個人的なリスクを低減する手段を奨励すること。
④ 人々が持っている価値や関心についてよりよく理解すること。
⑤ 相互の信頼と信憑性を促進すること。
⑥ 葛藤や論争を解決すること。
現在のところ、リスクコミュニケーションの手法として確立されたものがあるとは言えない状況です。
対象となるリスクの事象や事態に合わせて、適切な方法を考えることが求められます。たとえば、化学物質のリスクコミュニケーションについては、そのリスク事態の特徴をふまえた実施ガイドを学会(日第9章 室内環境汚染のリスクコミュニケーション 

 

9.1. リスクコミュニケーションの考え方

本化学会・エコケミストリー研究会)が示しています5)。薬物治療のリスクコミュニケーションの手続きを明確にし、その効果を評価する試みも報告されています 6)。
リスクコミュニケーションの効果に影響する要因どのような手法で実施する場合でも、リスクコミュニケーションの効果には多くの要因が影響し、その成否を左右します。

おもな要因は情報の送り手、受け手、メッセージ、媒体の4 つに整理されます 3)。
送り手側の要因でもっとも重要なのは「信頼性」です。

信頼できる送り手からのメッセージは受け入れられる傾向があります。多くの調査研究で、大学・研究所の専門家、Non-Governmental Organizations:NGO など中立の機関に対する信頼性評価は非常に高い一方、行政や企業に対しての市民からの信頼性評価は低いことが報告されています 7.8)。

中立であり、自らの利益や威信は度外視する送り手に対して、受け手からの信頼性の評価は高まることが実証されています 9)。

また、送り手側の要因として、専門家のバイアスを認識しておくことも重要です。

9.2 節でも述べるように、専門家にも、専門家の陥りやすい問題があることが指摘されています。受け手側の要因としては、知識や認知バイアス、感情バイアス、個人属性の影響が挙げられます。

メッセージの送り手が受け手側の様々な要因を理解しておくことは、リスクコミュニケーションの効果を向上させるために不可欠となります。

これらの点については 9.2 節で述べます。
メッセージの問題は、何をどのように伝えるかということです。

多くの市民にとって、専門用語はなじみのないもので理解に苦労するものです。

また、リスクの概念には確率や不確実性が含まれます。

このようなリスクの性質や大きさを効果的に伝えるには、さまざまな工夫が必要です。

リスクの表現の仕方(フレーミング)も影響します。

受け手の状況をよく確認し、伝え方を考える必要があるといえます。
これらの点については 9.3 節で詳しく述べます。

そして、媒体の要因です。

リスクコミュニケーションの媒体としては新聞、テレビ、インターネット、対面での会話など、多くのものが利用されます。

テレビや新聞などのマスメディアは一斉にリスクメッセージを伝達することができるため、注意喚起のためのリスクコミュニケーションに適しています。

最近ではインターネットの普及により、インターネットを重要な情報源としている人が増えています。

インターネットには、画像や動画も含め一度に多くの情報が発信できる、最新の情報が提供できる、リスク情報を持っている人が誰でも情報発信できる、市民がそのニーズに応じて検索できる、ネット上で関係者間の意見交換ができる、など多くの利点があります。

一方、情報の信頼性の保証が難しい、古い情報と新しい情報が混在し区別が難しいことがある、などの問題点もありますが、リスクコミュニケーションには有効なツールであるといえます。

対面でのコミュニケーションは、相互的なやりとりが可能なので、リスクの問題に直面する人々への相談対応や問題解決、関係者間の合意形成に適しているといえます。