・8.5.3. 室内の上下温度差
室内の気温の上下分布は、暖房方式によって異なります。
床や壁などを暖め、部屋全体を暖める輻射暖房、そして、石油ストーブなどにより周りの空気を暖め循環させる対流式暖房などがあります。
対流式暖房の場合には、空気は暖められて軽くなり天井付近に上昇し、足元の床面には冷たい空気が停留しやすくなります。
素足で畳の生活環境において、特に高齢者は、冷たい床面により足は冷え、感覚が鈍くなり、床に段差があるとつまずき転倒しやすくなります。
東北地方の古い民家での室内温度の上下分布に関する調査で、冬季の日常生活活動時の居間として使用している畳の部屋(A 室)と隣室の夏季に居間として使用している天井の高い吹き抜けの板の間(B室)を対象に、床面・床上0.5m・1.2m・2m の 4 点での温度測定を行いました。
暖房は、コタツや開放型の石油ストーブの使用です。
室温は部屋や時刻によりかなり異なり、天井板のある畳の部屋(A 室)では、日中の時間帯には、床温が最も低く10℃以下を示し、上部になるにつれて室温は高くなり、いずれの高さにおいてもA 室の平均気温は、吹き抜けの板の間の B 室より高く、各測定点でのばらつきが大きい結果でした。
最高温度は床からの高さが高くなるに伴って高値を示し、A室の2m での高さの室温は20℃台を示しました。
一方、最低温度は、いずれの高さでも 7℃以下と低く、しかし時間帯によっては、床温が他の室温よりも高い値を示す場合もみられました(図8.5.5)。
A 室の時間的にみた一般的な傾向として、最も高い室温を示した時間帯は 17 時で、床温は 9.6℃、床上 0.5m で 13.7℃、床上1.2m で 15.5℃、床上 2m で 16.2℃を示し、最高・最低の上下温度差は 6.6℃でした。
同じ場所で、最も低い温度を示したのは、暖房をしていない時間帯の夜間 3 時で、この場合は、床温は相対的に高く 4.3℃、床上 0.5m では 3.5℃と低く、床上 1.2m は 4.8℃、床上 2m は 6.8℃であり、最高・最低の上下温度差は3.3℃と日中に比較し小さい結果でした。
板の間の吹き抜けで天井の高い部屋(B 室)の場合には、全体として室温が低く、高い室温レベルを示す夕方の 17 時でも、床温は 7.3℃、床上 0.5m で 8.2℃、床上 1.2m で 8.5℃、床上 2m で 9.3℃であり、上部の温度が高いが、いずれも 10℃以下を示し、最高・最低の上下温度差は 2.0℃でした。
同じ場所で最も低い温度を示した時刻は、朝方の 5 時 30 分であり、床温が 1.9℃、床上 0.5m の室温が 0.8℃、床上 1.2m では 1.2℃、床上 2m で 1.5℃でした。最高・最低の上下温度差は少なく、室温が比較的高い場合には上下温度分布差が大きい結果でした。
暖房を行っていない夜半には、部屋全体の室温は低下し、それに対し床温の低下は緩慢で、床温が高い傾向がみられました。
室内の上下温度差による身体の影響についての人工気候室での実験において、被験者の腰から下を、30℃に設定した大きなこたつに入ってもらい、室温のみを 15℃から 35℃まで 5℃刻みの 5 段階に変化させて、それぞれ1日 90 分間ずつ 5 日間の実験を、数名の人について行いました。
計算や感覚などについての結果では、温熱感覚については上半身 15℃では寒すぎて不快、35℃では暖かすぎて不快、それも長時間の90 分時にはさらに不快度が増し、上半身 25℃、20℃で快適とした結果でした。
実験の 5 分後と 90 分後に行った計算テストの成績では、上半身 15℃と 20℃で成績がよく、25℃以上では成績が落ち、90 分時にはさらに低下し、25℃では計算ミスが多くなりました。実験結果からはくつろぐ場合には上半身 25℃の条件が好く、そして、デスクワークや学習の場合には上半身 15℃、20℃の条件が推奨され、頭寒足熱状態で、頭を冷静に物事は速く判断する「頭冷足暖」が好いと言えます。
最近では床暖房などの輻射暖房が、一般家庭でも普及しています。
一般的に床暖房の場合には床面の温度が最も高く、室内の気密性が高い場合には、床付近から部屋上部の室温にあまり温度差がみられず、
時間とともにほぼ均一な室温の垂直分布がみられます。
洋間を設定しスリッパ使用時の床温度と快適感についての実験では、20~28℃の床温度において90%の人が「ほぼ快適」としており、床温度 23~25℃でさらにより多く 95%の人が「快適」としています。
床温度が 15℃と低い場合には 20%の人が冷たさで不快を覚え、逆に床温度が高く 32℃位になると 20%の人が暑さで不快を覚えるとしています(図8.5.6.)。
床暖房は床面を広く使える利点とともに、バリアフリーの視点からも、高齢者にとってのメリットが大きくなります。但し、電気カーペットによる床暖房の際には、低温熱傷に注意する必要があります。
前後不覚に寝込んでしまい、温度感受性の低下している高齢者や酩酊者などは、熱さに気付かずに長時間、同じ身体部位を電気カーペットに接触して、身体の接触部位に熱が次第に蓄積され、皮膚の表面よりも身体の深部に重傷の熱傷となる低温火傷の事例がみられます。
温水が循環する温水式床暖房の場合には流体の熱源がたえず流動し、温度分布の均一性が得られ、身体部位に熱が蓄積されることはなく安全側にあります。
部屋の出入りが頻繁で室内の気密性があまり保てない場合や、外から帰宅し冷えた室内で、室温、床温を上げたいような場合には、電気カーペットも有用です。
また床暖房のみで部屋の暖かさを得るのでなく、床を暖かく保つのに主眼をおき、他の暖房方式の全体暖房の空調機やストーブなどを併用する方が効果的です。
冬季には温度のみでなく湿度が低くなりがちで、暖房していると低湿になります。
一般的に推奨されている 40~70%の湿度レベルより低く、湿度 40%以下になっている場合がみられ、乾燥から喉などの呼吸器や肌荒れなどの皮膚を傷害しやすくなります。
室内に植栽を置いて湿度に配慮するなりして、冬の暖房時には、温度のみでなく加湿についても留意する必要があります。