・7.1.3. 対策
シックビルディング症候群に関連する要因は、欧米と日本でほぼ同じです。室内を汚染するガス状物質やダスト、カーペットの使用、温湿度、不十分な換気、不十分な清掃や設備の維持管理です。
日本の調査では騒音もリスク要因でした。
これらの結果から、建築物室内における空気環境の適切な維持管理が対策として重要です。
日本では、建築物衛生法によって、浮遊粉じん、一酸化炭素、二酸化炭素、温度、相対湿度、気流、ホルムアルデヒドの管理基準が設定されています。
しかし、冬期の湿度基準の不適合と目の症状や上気道症状、冬期の温度基準の不適合と皮膚症状、夏期の二酸化炭素基準の不適合と非特異症状との関係が示唆されています。
一方、温湿度や二酸化炭素の建築物環境衛生管理基準の不適率が増加しています。これらの増加が生じている原因として、省エネルギー対応が関わっているとの報告があります。
具体的な例としては、空調機や換気設備の誤った使用方法による外気の導入不足、加湿器や空調機や換気設備のメンテナンス不良など、空気調和設備の維持管理に関わる問題が主な原因としてあげられています。
従って、これらの維持管理に関わる問題を解決し、建築物環境衛生管理基準の不適率を減少させることが特に重要です。
7.2. 学校の課題
学校におけるシックハウス症候群の発生は将来を担う子供たちの教育に重大な影響を及ぼす恐れがあるという意味で大変重要な問題です。
発症させないための様々な予防対策は、新築校舎に限るものでなく、建物全体のメンテナンスや物品管理にも関連があります。
また、学校で学ぶ児童生徒自身も予防に関わることになり、教員とともに建物の利用者全体の努力が予防につながることも認識すべきです。
7.2.1. 校舎の新築、改修、塗装近年の小中学校の校舎は鉄筋コンクリート造りのものから木造の校舎への建て替えもみられるようになり、使用される建材に変化が出てきています。
しかし、塗装や接着などで VOC(Volatile OrganicCompounds)を含む様々な材料が使用されることに変わりはなく、シックハウス症候群の発生には引き続き、注意を怠ることはできません。
a. 換気設備
オフィスビルなどは窓をはめ殺しにして、換気は機械換気装置を用いて全館で行うことが普通ですが、学校の場合、手動によって窓の開閉ができるようにして、外気の取り入れをするのが一般的です。
シックハウス症候群の予防には、換気は最も重要になりますので、施工の段階で十分な打ち合わせをしなければなりません。
また、換気装置に付属しているフィルターは定期的に洗浄または交換する必要がありますが、既存の学校の中にはフィルターのある換気口が容易に手の届かない位置にあるためにメンテナンスが十分にできない事例もみられます。
換気口の位置についてもメンテナンスを考慮し、設計の段階で周到に検討しておくことが求められます。特に新築校舎では使用開始後間もなく、シックハウス症候群の訴えが始まることが繰り返されていますので、この時期の換気については特別の配慮を必要とします。
また、手動による窓の開閉は、普段教室にいる児童生徒が行うことになることが多く、健康教育の意味も含めて適切な指導をすることが大切です。
b. 建材・塗装・接着
校舎などの設計・施工を請け負う業者とはあらかじめ、シックハウス症候群発症のない施工方法について十分な打ち合わせをしておくべきです。ホルムアルデヒドの発散に関しては発散等級区分に伴う使用基準が定められていますが、その他のVOC についてもより発散の少ない建材を使用するような配慮を指示しておくことも重要です。
また塗料はこれまでしばしばシックハウス症候群を発症させた VOCが含まれていますので、その選定についても慎重を期することが必要です。接着剤も同様であり、使用場所、使用量については把握しておくべきです。
c. 新築・改修?事の計画と使?開始時期多くの学校では、新学期とともに新校舎の使用を開始しています。
学年の区切りや授業のやりくりなどを考えれば当然のことですが、4 月初旬からの使用開始は決まっていますので、工事に遅れが出るようなことがあると、竣工後直ちに使用が始まることもあります。
しかし、使用開始にあたっては十分に時間をとって換気に関連する事項、すなわち空調換気システムの特徴や操作法、特に児童生徒が行うことになる窓の開閉の仕方などについてはしっかりと確認する時間が必要です。
また、予想に反して VOCの発生が大きかった場合はベイクアウト(半日ほど室内を高温にさらし、VOC の揮発を促して建材などに残る VOC を排出させること。
トルエン、アルコール類などには有効、ホルムアルデヒドなどアルデヒド類の排出には効果は少ない)の措置を講じる必要が出てくるかもしれません。
また、これまでの報告事例から床のコンクリートが十分に乾ききらないうちに使用を開始したために床材のタイルカーペットの下地に含まれるフタル酸エステルが生乾きのコンクリートの強アルカリと反応して、2-エチル-1-ヘキサノールが長期間にわたって発生し続け、シックハウス症候群による健康被害が発生することもわかっています。
コンクリートの乾燥には十分な時間が必要ですが、その余裕がなかったために問題が発生したことを考えると、余裕を持った工期の設定が必要で、学校行事の年間サイクルを見ながら、慎重に工事の計画を検討することが必要になります。