6.4.1. 湿度管理の考え方
湿度の管理は、上記のような様々な障害をバランスよく避けながら効率的に行うことが目標 になります。
VOC 等の汚染物質と水蒸気は、発生源・凝縮仕組や成分に違いはありますが、ど ちらも気体ですから発生低減や気密化など対策には共通部分があります。
一方、汚染濃度は低 いほど望ましいのに対し湿度は低すぎても高すぎても問題を生じるため、めざす目標の設定方 法は異なってきます。
例えば、建築物衛生法に管理すべき温度、湿度範囲が基準として示され ていますが、建築環境工学の観点から住宅に「適切な温湿度」の目標を一律に決めることは容 易ではありません。
温熱快適性や作業性、健康性などの目標によって変わる上、結露対策や管理などを考えると 建物・設備の性能や構造にも左右されることになるためです。
さらに言えば、居住者の年齢・ 代謝や着衣、使えるエネルギーや資材・技術の資源にも制約されますから、条件を決めつける ことは難しいと言えるでしょう。
但し、室内湿度(水蒸気)に起因する直接的な生理影響はシ ックハウス症候群のように重篤なものは少なく、居住者が冷暖房によって対応できる部分が大 きくなります。
但し、室内湿度は直接的な生理影響以外の、建物内外の結露・水分蓄積や生物 環境(カビ・腐朽菌等)にも大きな影響を与え、間接的な障害を生じさせるおそれがあります。
以下、本マニュアルのシックハウス対策に資する結露防止の基本について述べていきます。
6.4.2. 結露パターンと対策
「結露」はカビ、害虫獣の繁殖や腐食を促進する要因として室内環境の健康性・衛生性を大 きく損なう危険性を持っています。
湿り空気(水蒸気を含んだ空気)と、その空気の露点温度よ り低温な物体との出会いで生じる単純な物理現象ですが、現代に至っても紛争処理支援機関に 持ち込まれる相談のワースト 3 から抜け出せないことが建築から追放するには多くの困難があ ることを物語っています。
1表面結露対策の原則
対策原理は、空気中の水分(水蒸気圧)を管理して低く保つか、建築の表面温を湿り空気が 飽和する露点温度より高く保つことの二点に尽きます。
しかし、居住者が勝手なふるまいをし ても全ての部材、全ての空間、全ての季節を通して結露しない住宅を提供することは、現実の コストやエネルギー制約を考えると難しいのが実情です。
また、近年の省エネ施策により断熱 性が向上しましたが、暖房空間の範囲が広がったことにより、かえって部屋と部屋との間の温 度差や温度変化が大きくなって結露危険を増す場合も見られます。
「水分管理」に係る水分供給源には、生活行為(調理・入浴・植栽・洗濯物干)や人体発生、 外気(降雨)、地盤などがあります。
室内の水分は、発生量を控えた上で、空調換気設備があ ればそれを適切に運用して、用途・目的に応じた管理をするのが居住者には最も実用的な対処 法です。
居住者人体への生理影響を生じない範囲を見極めて、日常の知恵と工夫でできる限り低め (例えばインフルエンザ感染を考慮すると 40%など安全側)の湿度制御をすることが勧められ ます。
一方、「表面温度」に係る建物側の熱性能を、必要な表面温度が保てる水準に設計し施 工するアプローチがもう一本の柱です。
こちらの方が生活上の自由度・満足度は高いのですが、 設計段階からの準備と初期投資も必要となります。
また、室間の温度差や家具配置などによる 裏側壁面の低温化などを防ぐため室内の熱(暖気)を均質に届けることも必要条件ですが、変 動する外界気象や多様な室内熱環境への要求に静的(固定的)な断熱気密で対応するのが難し い状況も懸念されます。
しかし、かつては断熱性が低く弱点と言われた開口部も、近年は高性 能ガラス・サッシなどの普及により、保温性能の底上げがされて採用が容易になってきています。
コストとエネルギー制約、建築特有の立地条件や不確実性はなくなりませんが、変動や多 様性に耐える結露防止の基礎体力を高めて対処する余地は広がってきています。
二つの戦略の 何れかで完璧を期すのではなく、これらの対策原理を場所と時間、生活要求に応じて組み合わ せ、使い分けることが不可欠です。
2内部結露対策
水蒸気は熱よりも速やかに広がりやすく、通常の表面結露では室内(ゾーン)の水蒸気量は 均一と考えて大きな誤りはないのですが、木造や RC(Reinforced Concrete:鉄筋コンクリー ト)構造の住宅などでは躯体内に断熱層が設けられたため、熱と湿気の流れが偏り、「内部結 露」状況が生じやすくなっています。
「内部結露」とは、湿気は通すが熱を遮るグラスウールなどの断熱材が温度と湿度のバラン スを崩し、局所的な温度分布を生じて結露に至る現象です。
極論すれば、熱と湿気が揃って流 れている時は結露を生じなかった壁内に、断熱材・気密材・防湿材が入りこみ、その足並みが
そろわなくなったためにおこります。
戦後の建築界では、先ずサッシ登場などによる室内の気 密化が先行して「表面結露」が誘発されました。
次いで省エネを意図して進められた断熱化が 「内部結露」を誘発し、それらを防湿設計や通気工法が後を追って繕ってきたという苦い経験 があります。
断熱材などが入った構造内部に湿気を侵入させない「防湿構造」をしっかり設け て守るとともに、構造用金物などの多用が進む今日、断熱層を非断熱建材の熱橋(熱を通しや すい部材)が貫通するのを防ぐことも重要です。
また、冒頭でも触れたように、実際の建築空 間では、「第四の顔」である材内含有水分を介しての吸放湿が、水分の流れに大きな影響を及ぼ すことも重要です。
3非定常結露対策
「非定常結露」は、先に述べた結露原因である「水蒸気量」や「表面温度」が通常と違う動 きをした時に生じる結露です。
多くの場合、冷え込んだコンクリートなど熱容量が大きく、温 度変化しにくい部材に湿った空気が接して起こります。例えば梅雨の時期、日の当たらない床 下の基礎やコンクリート壁に湿気を含んだ暖気が急に侵入するなどが典型例でしょう。
これに は熱容量を抑えたり、暖気侵入を阻止するなどの対策がありますが、顕著な被害が生じない部 位であれば、乾燥を促すなどで対処する場合も多いようです。
4実用的な対応
このようにいずれの対策も長所短所を併せ持ち万能の決め手とはいきません。
また、実際の 建築は個々の技術や部品の足し算で成り立っているわけではありません。
常識的ですが推奨できる現実的な管理上の戦術を列挙してみました。
- 1) 湿度水準、水分発生の抑制、室内温湿度条件に即して全般湿度の低減を図る、居住の
温熱快適性と作業効率の条件内で低めに - 2) 過剰な水分の速やかな排出局所の水分発生源を管理し、換気を活用して速やかな排出を図る
- 3) 室内及び室間の温度差縮小と最低水準確保 建築内各部の温度差縮小と、温湿度管理水準 に即した最低表面温度の確保を図る
- 4) 結露しても被害を出さない配慮窓や凹凸部位における結露危険部位を予め特定し、構造安全・衛生保健等に支障・被害を生じないよう設計或いは運用上の配慮を行う
- などが挙げられます。