図 6.1.5.は木造住宅において室内と近傍の壁体内部の空気をサンプリングし物質種ごとに比 較したものです。
ホルムアルデヒドやエタノールのように測定場所に偏りの少ない物質がある 一方、接着剤に含まれる酢酸エチル、発泡プラスチック系断熱材のスチレン、木質材の α-ピ ネンのように壁体内の方が濃度の高い物質や、殺虫剤に使われる p-ジクロロベンゼンのよう に室内の方が高い物質も見られます。このように木造住宅では、躯体内での発生と室内への移 行が疑われる場合が多いのですが、建物構造形式などによって様相は一律ではありません。
具体的な発生源としては、木質の合板、集成材、パーティクルボードなどのほか、接着剤、 防蟻剤、防腐剤などが主なものですが、近年は躯体内にエアコンを設けたり、躯体内空間を蓄 熱・送風・集熱などに活用しようとする試みも見られ事態を複雑にしています。
これらは省エ ネルギーや温熱環境改善には効果がありますが、衛生管理上の課題を生じさせない適切な清 掃・消毒などの配慮が必要になる場合があります。
6.2. 化学物質の発生源、材料、JIS、自主規制
ここでは発生源の分類に沿って、その分析・評価方法と基準について述べます。
シックハウ スが社会問題化した 1990 年代当時はホルムアルデヒドが主要な汚染物質と認識されていまし たが、調査研究が進むにつれ揮発性の高い様々な物質(VOC)の存在と有害性が明らかになり、 それに伴って発生源として多様な建材や製品に関心が広がりました。
法規制や基準整備はホル ムアルデヒド中心に進みましたが、その他の物質については、建築基準法改正に際して「室内 空気汚染による健康影響が生ずると認められる化学物質については、全て規制対象とするよう、 室内空気中の化学物質の濃度の実態や発生源、発散量等の調査研究を進め、その結果が得られ たものから、順次、規制対象に追加すること」「建築材料及び換気設備の技術的基準について は、室内空気中の化学物質の濃度を厚生労働省の指針値以下に抑制するために通常必要な基準 を適切に定めるとともに、本法施行後に実態調査を行い、必要に応じてその見直しに努めるこ と」「化学物質による室内空気汚染問題について、今後とも、関係省庁が連携して、原因分析、 基準設定、防止対策、情報提供、相談体制整備、医療・研究対策及び汚染住宅の改修等に関す る総合的な対策を推進すること。
あわせて、カビ、ダニ等に由来する室内空気汚染による健康 被害及びその対策についても、その調査研究を推進すること」などの附帯決議がつけられてい ます。
近年は、細菌・カビなど微生物に由来する MVOC(Microbial Volatile Organic Compound)の他、常温では揮発性が低く、従来の VOC とは物性や移行経路が異なる準(半)揮 発性物質(SVOC: Semi Volatile Organic Compound)も健康阻害要因として注目を集めていま す。