6.1.2. 汚染物質の放散と対策の基本的考え方
図 6.1.3.に建築基準法改正に際して作成した、ホルムアルデヒド発生と被害に係る建築的要 因の連鎖を示します。
ホルムアルデヒドは当時最も被害が大きく、国土交通省の実態調査 (2001 年)においても厚生労働省の濃度指針値(0.08ppm)を 25%以上の住宅で超過していた代表 的汚染物質です。
左端の被曝被害から右に向かって、係わっている指標・要因と、その制御の ための物理的条件(対策)が示され、法的対応を想定したポイントは破線で囲まれた記述と矢 印で記しました。
ここでは時間経過や発生部位の詳細に立ち入ることなく、住宅全体の定常 (平衡)状況を簡略に表現しています。
室内濃度を抑えるには、この連鎖をどこかで断ち切る ことが必要です。
本章の冒頭に示した汚染発生の抑制と汚染排出の確保に加えて、(発生量当 たりの)室容積を増やす、或いは吸着(分解)を促すなどの手段が挙げられています。
前者は建 物自体を改造(設計変更)しなくてはなりませんし、後者は居住者による機器や部材の導入によ らなければならないため建築基準法では規制対象にはできません。
さらに汚染の発生源の対策 として規制の必要がある「汚染発生量」から右に追うと、「使用面積」「発生の強さ」に加え て「他の発生源(ストーブ他)」「隣室からの流入」が挙げられています。
「他の発生源」と しては開放型燃焼(石油ストーブや携帯型ガスコンロ、喫煙、厨房からの廃ガス漏気)、「隣 室からの流入」としては外気や構造体内、居住していない部屋からの流入などを想定していま す。前者に建築基準法が介入することは難しいと判断する一方、後者に対しては「天井裏等」 という形で規制をかけることとしています。
なお、建築基準法では使用面積算定の煩雑さを避けるため、表面積が全体の 1/10 以下とな る線状或いは点状の材は規制対象としないので、設計図から発生源を探す時には注意が必要で す。
シックハウス対策の歴史の中では、平成 11 年制定の「住宅の品質確保の促進等に関する法 律」(以後「住宅品確法」)が当初、表面材に限った壁紙とその下地材(一般に石膏ボードまた は合板)のみを対象とする評価からスタートしました。
しかし、2003 年 7 月の建築基準法改正 に先立って国土交通省が行った研究プロジェクト(国土交通技術総合研究開発プロジェクト 「シックハウス対策技術開発(2001~2003 年)」等)において、この方法ではホルムアルデ ヒド室内濃度の変化を評価できないことが指摘されました。
現行の建築基準法・住宅品確法は、 表面材だけでなく構造体内部も含めて建物全体の汚染源を総合的に考慮するよう改められてい ます。