5.4. 喫煙、受動喫煙、三次喫煙
5.4.1. 喫煙、受動喫煙によって発生する有害物質と病気
喫煙者が吸い込む煙を主流煙、タバコの先端から立ち上る煙を副流煙と呼ぶことは広く知ら
れるようになりました。タバコを吸わない人が、副流煙と喫煙者の口から吐き出された煙の混
合物を吸わされることを受動喫煙と呼びます。
喫煙によって発生する煙は、粒子状成分(ミスト状のタール)とガス状成分(一酸化炭素、 ホルムアルデヒドなどの気体)の混合物です。
タバコ煙が視認できるのは粒子状成分が光を乱 反射するからです。
タバコ煙の粒子の直径は 1μm(ミクロン)以下で、中国からの越境汚染 で問題となった微小粒子状物質(PM2.5)よりも小さいため、ガス状成分とともに空気の流れ に乗って肺の最深部まで到達します。
粒子とガスには約 4000 種類の化学物質が含まれており、そのうち約 200 種類は人体に有害 で、約 70 種類には発がん性物質があります。
そのため、まず、肺の炎症を起こし、その炎症 は血液を通じて全身の動脈硬化を起こし、心筋梗塞や脳卒中、末梢動脈の閉塞などの血管系の 病気になります。
また、発がん性物質は、肺からだけでなく、口腔粘膜~咽頭にもばく露され ますし、消化管からも吸収されるので、肺がん、舌がん、咽頭・喉頭がん、食道がん、胃がん、 大腸がん、膀胱がんなどのリスクも高くなります。近年、糖尿病や慢性関節リウマチ、免疫の 異常の原因になることも分かってきました。
受動喫煙にばく露された場合も上記の喫煙関連疾患のリスクが高くなります。例えば、長期 間の受動喫煙のばく露を受けた人の肺がんや心筋梗塞のリスクは、ばく露のない人よりも 20 ~30%も高くなります。また、口腔粘膜や衣服に付着した粒子状物質からガス状成分が長期間 にわたって揮発します。その場で喫煙していないのに喫煙者の口臭や衣服がタバコ臭いこと、 吸わない人が喫煙可能な飲食店等を利用すると衣服や毛髪がタバコ臭くなる現象を三次喫煙 と呼びます。健常人には「迷惑」ですみますが、気管支喘息や化学物質過敏症の患者さんでは 発作の原因となりますし、つわりの時期の妊婦では嘔気を催します。
シックハウス症候群を避けるためには、自宅内を完 全禁煙にするだけでなく、玄関・通用口や窓に面した 庭先、集合住宅の場合は隣家や下の階のベランダを含 めて居住空間の周囲における受動喫煙を避けること、 さらに、三次喫煙を避けるために同居している家族に 禁煙させることが必要です。
自宅外であれば、屋内で 喫煙している飲食店等には立ち入らないこと、公共施 設等の喫煙室の周囲には近づかないこと、屋外であっ ても喫煙コーナーの風下は避けることが大切です。
さ らに、集合住宅では上下左右に隣接する住居との壁や 床・天井の隙間、コンセントの隙間などからガス状物 質が流入することも指摘されており、今後の検討課題 とされています。