38;科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂版) | 化学物質過敏症 runのブログ

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4.2. 世界の規制の動向

諸外国では、日本と同様に、室内空気質ガイドラインの策定に重点が置かれています。室内空気 質ガイドラインは、日本の室内濃度指針値と同様に、室内空気質の望ましい基準を示したものであ り、規制というよりも、むしろ誘導的な方策といえます。

室内環境は、管理責任者が単一ではないこと、室内濃度は温度や発生源からの減衰の影響を受け て大きく変動するため単一の測定結果では判断できないことなどから、室内空気汚染に対する規制 は容易ではありません。

そのため、行動を起こすべき、あるいは目標とすべき濃度として汚染物質 濃度のガイドラインを定め、それを目標に建材や家具等の汚染源に対する放散基準を設定する取り 組みが適切だとされています。

室内空気汚染の問題は、欧米諸国では 1970 年代より顕在化し、その対策が講じられてきました。

 その牽引は、ドイツと北欧諸国を中心とする欧州諸国であり、これらの国々が加盟している世界保 健機関欧州事務局(World Health Organization: WHO欧州)が先導してきました。

 

4.2.1. 世界保健機関のガイドライン

 

空気汚染は、世界保健機関(WHO)が 40 年以上にわたり取り組んできた健康影響問題です。WHO 欧 州は、1987 年に空気質ガイドラインを公表して以来、室内空気汚染に関する多くの情報や助言を提 供してきました。

空気質ガイドラインの目的は、人の健康に対して有害である、あるいは有害であ る可能性がある空気汚染物質による一般住民の健康影響を保護するための基礎資料を提供すること にあります。

そして、特に環境基準値の設定など、関係諸国のリスク管理における政策決定に利用 可能な情報や指針を提供することにあります。空気質ガイドラインは、そのままそれぞれの国の環 境基準値とすべきではなく、環境基準値が設定される前に、ばく露状況、環境、社会、経済、文化 的な状況が考慮されるべきであるとされています。

室内空気を汚染する有害物質の汚染源は、燃焼生成物、建材、住設機器、生活用品など多数あり ます。また、多種類の細菌やカビなどの微生物による汚染もあります。室内空気質は、建築設計、 材料、維持管理、換気、生活行為などのさまざまな要因の影響を受けるため、そのリスク管理は容 易ではありません。WHO の従来のガイドラインは、主に大気の空気質管理に利用されており、多く の諸国において、室内空気質の管理にはほとんど効果のないものでした。そこで WHO 欧州は、2006 年から、世界中において室内空気質の管理が容易に可能となるよう設計された室内空気質ガイドラ インの作成に着手しました。

ガイドラインの対象を選定するにあたっては、既存の科学的知見を精査し、定量的に設定できる ものと定性的なガイダンスを勧告するものが検討されました。その結果、2009 年に湿気とカビのガ

 

イドライン、2010 年に汚染物質に対する個別のガイドライン、2014 年に室内における家庭用燃料の 燃焼に関するガイドラインが公表されました。

家庭用燃料の燃焼による健康影響は、アフリカや東 アジア等の発展途上国で深刻な問題となっており、欧州地域のみならずグローバルな問題です。そ こで燃料の燃焼に関するガイドラインは、WHO 本部からガイドラインが公表されました。

a. 汚染物質に対する個別の室内空気質ガイドライン

ガイドライン対象物質の選定基準は、(1)室内汚染源が存在すること、(2)利用可能な毒性及び疫 学データ(無毒性量や最小毒性量など)があること、(3)室内濃度が無毒性量や最小毒性量を超えて いることの 3 つでした。この基準に基づいて、ホルムアルデヒド、ベンゼン、ナフタレン、二酸化

窒素、一酸化炭素、ラドン、粒子状物質(PM2.5、PM10)、ハロゲン化合物(テトラクロロエチレン、 トリクロロエチレン)、多環芳香族炭化水素(特にベンゾ-a-ピレン)が選定されました(表 4.2.1. 参照)。

WHO欧州は、受動喫煙の原因となる環境タバコ煙(Environmental Tobacco Smoke: ETS)に関しては、 安全なばく露レベルに関する証拠が存在しないため、ガイドラインの作成は必要でなく、ETS は室 内空間から排除すべきであるとしています。粒子状物質に関しては、2005 年に空気質ガイドライン が公表されており、室内空気にも適用可能です。PM10 の年平均値が 20μg/m3、24 時間平均値が 50μg/m3、PM2.5 の年平均値が 10μg/m3、24 時間平均値が 25μg/m3 です。

一酸化炭素について、WHO 欧州は、2000 年に公表したガイドラインでは、短期間のピーク値のガ イドラインである 15 分値(例えば、換気されていないストーブ)、その他に 1 時間値(例えば、器 具の欠陥)、8 時間値(職業性ばく露など)を設定しています。

2010 年のガイドラインにおいて、 これらの数値は変更されていません。しかし、一酸化炭素への長期間ばく露によって、感覚運動能 力の変化、認識能力への影響、感情や精神への影響、循環器系への影響、低体重児出生などとの関 連が報告されてきたことから、24 時間値のガイドラインを新たに作成しました。

ホルムアルデヒドに関しては、近年、鼻咽頭がんと急性骨髄性白血病に関してヒトの発がんに関 する証拠が十分であると国際がん研究機関が判断しました。WHO 欧州は、ホルムアルデヒドのガイ ドラインを作成するにあたり、発がん性に関して検討した結果、非発がん影響から設定した室内空 気質ガイドラインの 30 分平均値 0.1mg/m3 は、長期ばく露による肺機能への影響、鼻咽頭がんや骨髄 性白血病の発症も防止できると判断しました。

また、ホルムアルデヒドの気中濃度は時間帯によっ て変動するが、いかなる時間帯でもこの値を超えないこと、という一文をガイドラインに加えまし た。

つまり、ホルムアルデヒドのガイドライン 30 分平均値 0.1mg/m3 には、天井値(最大許容濃度) としての意味合いが含まれていることをしっかり認識しなければなりません。