32;科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂版) | 化学物質過敏症 runのブログ

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3.4.5. 化学物質過敏症とされた患者さんに対する適切な治療とケア 

化学物質過敏症の病因は明らかにはなっていませんが、個々の患者には症状の緩和につながる支 援が重要です。

これまでに自覚症状改善に向けた対処療法として、グルタチオンなどのいわゆる解毒剤やビタミン剤の投与が有害化学物質の代謝や排泄を促進するために実施されてはいますが、科 学的にその有効性が証明されていないことに注意が必要です 45)。

3.4.1.で述べたように、化学物質 によることを前提とした解毒療法は既に米国内科学会や米国医学会では否定されています 9,12)。

すなわち、食事や化学物質の使用制限はする必要がなく、「転居による(現在の環境からの)退避」 はむしろ社会とのかかわりを絶ち、患者さんを孤立させる恐れがあるので転居をすべきでないと注 意をしています 7)。 

一方、近年デンマークの Hauge らから、マインドフルネス認知療法と呼ばれる、「気づき」や 「注意コントロール」に基礎をおいた心理療法による治療(介入研究)が報告されています 43,44)。 

この研究では 69 人の化学物質過敏症患者を 2 群に割付け、介入群には 2 時間半のマインドフルネ ス認知療法を 8 週間実施し、コントロール群はそれまでの生活を継続したのち 1 年後まで追跡を行 いました。

この結果、マインドフルネス認知療法による症状への効果や症状による社会的影響に対 する有意の効果は得られませんでしたが、患者さんの「認知」や「感情」に対しては前向きな、よ い変化が見られました。

つまり、マインドフルネス認知療法によって恐怖に対する認知をかえて、 病気への対応力を向上させることは可能であると北欧諸国では考えられています。

また、日本でも 最近、平田と吉田は、化学物質過敏症の発症過程における精神心理要因の関与について面接調査を 行い、発症前の心理負荷の関わりを明らかにしています 31)。

この結果、化学物質過敏症の発症には 心理社会ストレスが関わる可能性を示唆し、化学物質過敏症の患者さんと接する上で精神心理的な 治療を発展させることが回復のために重要であると説いています 31)。 

一般病院や診療所において、患者さんが自らの症状と化学物質ばく露との関連を訴えて受診され た場合、まずは患者さんの訴える症状に耳を傾けながら、職場環境など、ストレスによる体調不良 を起こしている可能性などをよく調べます。

医学的には、うつ病やパニック障害などの基礎疾患と して存在する可能性のある他の類似疾患を専門医の意見を聞き、心理社会的要因を含めて鑑別(除 外)診断することは、患者さんへの適切な治療を行うためにも必要です。

さらに生活環境 に増えて いるにおいと患者さんの身体不調との関係などを逐次検討していきます。

最終的にもしも環境化学 物質との関係が強く疑われるが、患者さんの住宅や勤務先でばく露に関する実際の測定データや情 報があまりない場合には、近隣の保健所や衛生研究所、環境測定機関、あるいは労働衛生機関など に紹介してください。 

一方、症状との関係からみてばく露濃度が低いと推定されるとき、あるいはすでに環境が改善さ れているにもかかわらず症状が続くときには、本当に化学物質が症状に対して問題なのかどうかを 再検討する必要があります。

環境測定により、化学物質濃度が高い場合はその濃度を低減させる対 応が必要です。

しかし、実際に自宅などを測定しても厚生労働省のガイドラインを下回るケースが 報告されています 39,46)。

その場合には化学物質ではなくカビやダニアレルゲンなどの生物学的要因、 あるいは湿度環境が原因のこともありますので、本書を参考にその点も患者さんにわかりやすくよく説明します。掃除や換気などの住まい方の改善により症状が良くなることがあることも伝えてく ださい。

その上で、環境ストレスに患者が対峙するために北欧で行われているマインドフルネス認 知療法は(化学物質そのものに対する治療ではありませんが)、症状を和らげて患者の生活の質を 向上させるためは役立つ可能性も示唆されています 43,44)。