3.4.4. 化学物質過敏状態が引き起こされるメカニズム
化学物質過敏状態の発症メカニズムとしては、不快と感じる化学物質に対する条件反応的な「予 期(反応)」によるのではないかという説もあります 36)。
プラシーボは薬剤の臨床試験ではしばし ば用いられる薬で、乳糖や澱粉、生理食塩水が通常用いられます。
薬理作用を持つ成分は含まれて いなくても、例えば「痛みに効く」といわれると鎮痛効果がみられることがあります。
これとは逆 に、例えば、「この薬は副作用として吐き気を起こすことがある」と説明すると、たとえ服用させ たのものが偽薬でも吐き気を起こしうることをノシーボ効果といい、臨床試験では試験薬のノシー ボ効果として不眠や悪心、食欲不振などが報告されています 37,38)。
Bolt と Kiesswetter は化学物質 過敏症においては、不安などに感受性が高いグループが、臭い刺激によるノシーボ効果で身体症状 を呈している可能性があると説明しています 36)。
興味深いことに、Araki らが行った介入研究では、 多くの化学物質過敏症の患者さんは香水や芳香剤の臭いを不快としているにもかかわらず、天然の 植物から得られる精油の香りには寛容でした 39)。
精油が受け入れられたのは、天然(自然)な香り であるという受け止めがその背景にあったからではないかと考えられます 40)。
化学物質過敏症は、シックハウス症候群と似ているように取り扱われることがありますが、これ まで紹介したように、低濃度の化学物質が患者さんの多彩な症状を引き起こしているとする客観的 な根拠がありません。
一方で、化学物質過敏症は身体表現性障害の診断基準を満たすことから、そ れらの疾病が背景にあるとする意見もあります 32,34,35,41-44)。
前述したとおり最近、内外から二重盲 検法で化学物質に起因することは否定される論文が 4 編出ていることを考慮して、また職場や家庭 でも種々のストレスが重なる場合を考慮して、適切な診断とケアを進めることが患者さんのために 最も必要と思われます。