28;科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂版) | 化学物質過敏症 runのブログ

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3.4. シックハウス症候群といわゆる化学物質過敏症の違いについて 

本節では、シックハウス症候群といわゆる化学物質過敏症の違いについて、これまでに国内外で行 われた調査研究結果や関係機関等における公表情報等を中心に情報収集し、知見を整理しました。 

3.4.1. 疾病概念 

シックハウス症候群の主な原因としては、建材や内装材、あるいは生活用品等から放散されるホ ルムアルデヒドやトルエンをはじめとした揮発性の有機化合物があります(第 3 章 3 節参照)。原 因になりうる主な化学物質の多くについては室内濃度指針値が定められています。

それらに加えて、 カビやダニ、ダンプネス(結露の発生などの室内の部分的な湿度環境が悪化した状態)があげられ ます 1)。 

一方、いわゆる「化学物質過敏症」(以下、化学物質過敏症)についてはシックハウス症候群と 混同されることもありますので、ここではシックハウス症候群と化学物質過敏症の違いを中心に述 べます。

化学物質過敏症は、自律神経系の不定愁訴や精神神経症状をはじめとする多彩な症状を訴 えます。

例えば、頭痛、筋肉痛(筋肉の不快感)、倦怠感、疲労感、関節痛、咽頭痛、微熱、下痢、 腹痛、便秘、羞明・一過性暗点、鬱状態、不眠、皮膚炎(かゆみ)、感覚異常、月経過多、などの 症状があげられています。特徴は特定の化学物質ばく露がなくなっても症状が継続したり、全く異 なる化学物質に対しても多彩な症状がでることです 2)。

シックハウス症候群でも頭痛や疲労感など の精神神経症状がみられる場合もありますが、鼻や喉・呼吸器、あるいは眼などの粘膜への刺激症 状や皮膚の症状が多く、それらが主体になります 1)。 

シックビルディング症候群・シックハウス症候群は室内環境に由来する健康障害であり、化学的 要因、生物学的要因、物理学的要因、心理社会的要因等があります。原因を除去できれば、回復は別の疾病概念と考えられます。

シックハウス症候群と化学物質過敏症の違いを知っておくことは 市民からの相談に的確なアドバイスをするために必要ですので二つを比較します。 

いわゆる「化学物質過敏症」(多種化学物質過敏状態、Multiple Chemical Sensitivity: MCS、あるいは Chemical Sensitivity: CS)の概念は 1987 年に米国の Mark Cullen によって提唱されました 3)。

「化学物質過敏症は、多種類の臓器系に対して再発性の症状をきたす後天性疾患であり、その 症状は、一般住民で有害な影響が生じる濃度よりもはるかに低い濃度において、多くの科学的に無 関係な物質へのばく露によって生じる。

また、一般に広く知られている生理作用は症状に関連して 見られない」としています 3)。その後、Ashford と Miller は「化学物質過敏症を呈する患者は、原 因と疑われる物質から遠ざけ、厳密に管理された環境状態で適度な間隔をあけた後に再検査(負荷 試験)をすることで確認可能である。特定の負荷試験に伴う症状の再発や、原因となっている環境 から遠ざけて症状を一掃することで、因果関係が推定される」と報告しています 4,5)。1999 年に 24 名の米国の専門医や研究者が化学物質過敏症の概念に関する合意文書として発表したコンセンサス 1999 では、「1慢性疾患である、2再現性をもって現れる症状を有する、3微量な物質のばく露 に反応する、4関連性のない多種類の化学物質に反応する、5原因物質の除去で改善または治癒す る、6症状が多臓器にわたる」と記されています 6)。しかし、上述したような化学物質過敏症に関 する概念について多くの解説がなされており、化学物質過敏症がシックハウス症候群の一部である、 あるいはシックハウス症候群が先にあり、そのあと化学物質過敏症に移行するように書かれている 解説はありますが 4,5)、この根拠となる、患者に生じている症状の原因について、環境中の化学物 質ばく露の種類や濃度とのと因果関係を明らかにした論文はありません。

原因となったとされる環 境ばく露が全くなくなってからも症状が続くことなど、従来の中毒症やシックハウス症候群とは病 像が異なります。化学物質過敏症の疾病概念自体が未確定ですので、現時点では客観的な臨床検査 法や診断基準も確立されていないところです。 

このような状況により、いわゆる「化学物質過敏症」に関して、アレルギーぜん息&免疫学会 7,8)、米国内科学会 9)、米国カリフォルニア医学協会 10)は既存の論文をレビューし、化学物質過敏症 を中毒性の身体疾患とする考え、また極微量でも一定の量が体に進入し続けると身体反応を示すよ うになるいわゆる「総身体負荷量説」や免疫不全によって生じるという説についても、それらを支 持する科学的論文はみつからなかった、とする意見表明を学術誌に掲載しています。米国職業環境 医学会 11)。

米国医学会 12)、全米研究評議会 13)、米国健康科学会 14)、カナダオンタリオ州厚生省 15)、 英国王立医師協会 16)、なども化学物質過敏症の定義、診断法や治療法には科学性な根拠がないとす る意見表明や報告を学術誌に発表しています。

なお、ドイツ連邦保健省やドイツ環境省などと共同 で国際化学物質安全性計画(International Programme on Chemical Safety: IPCS/UNEP-ILO-WHO)が 組織したワークショップの報告書では、化学物質過敏症は化学物質ばく露と症状との間に因果関係 を示す根拠がないことから「本態性環境不耐症(Idiopathic Environmental Intolerance: IEI)」と 呼んでいます 17)。

日本では、化学物質過敏症の診断基準として、石川らが提示した診断基準が用い られることがありますが 18)、検査項目として挙げられている症状や検査所見は眼科検査が主体であ るうえ、特定の化学物質へのばく露によると特異的に認められるものではないことに注意をする必 要があります。