http://www.nies.go.jp/kanko/news/index.html
福島支部と災害環境研究
特集 国立環境研究所 福島支部を拠点とした災害環境研究の新たな展開
福島支部と災害環境研究
滝 村 朗
国立環境研究所(以下、国環研)は、東日本大震災の直後から、地震、津波、さらには福島第一原子力発電所事故によって引き起こされた環境汚染とその環境回復、被災地の復興に関する調査・研究を進めてきました。
現在は、災害環境研究プログラム(以下、災害環境研究 PG)を設け、平成 28 年 4 月に福島県三春町の福島県環境創造センター内に開設した福島支部を現地の拠点として、つくば本部と一緒に研究に取り組んでいます。
平成 28 年の国環研ニュース 6 月号でも福島支部設立の紹介記事を書かせていただきましたが、その後施設・設備や運営体制も徐々に立ち上げが進み、研究活動も軌道に乗りつつあります。
本号では、「福島支部を拠点とした災害環境研究の新たな展開」を特集テーマに、災害環境研究 PG 全体の取組状況を概説するとともに、個別研究プログラムについてはメンバーの若手研究者から研究トピックスを中心にご紹介することにしました。
また、最後に福島支部の活動基盤となる施設・設備についてもご紹介しています。
災害環境研究 PG は、汚染環境の着実な回復(環境回復 PG)、復興プロセスでの新たな環境づくり(環境創生 PG)、将来の災害への環境面からの備え(災害環境マネジメント PG)の 3 つの視点に立った個別研究プログラムから構成されています。
いずれも社会や現場に相当近い接点を持って活動しており、世の中の動きを反映しつつ、多様な連携のもとで研究を展開しています。
環境回復 PG では 2 つの大きなテーマを扱っています。震災後 6 年が経ち、昨年 12 月には「原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針」が閣議決定されるなど、福島は新たな復興ステージに入っている中で、1 つめのテーマである放射能汚染廃棄物研究では、段階的に本格化する汚染廃棄物・除去土壌の中間貯蔵そして最終処分に向けた技術・システム開発を進めており、中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)との共同研究も開始しています。
2つめのテーマである放射性物質の環境動態・影響評価研究では、避難指示解除後も視野に入れた長期的な生活環境の管理が課題となっています。
原発事故後の環境がどう変化し回復していくのか、長期のモニタリングはそれ自体重要ですが、将来予測を含め長期管理に役立つ形で結実させていくことが必要です。
環境創生 PG では、福島県新地町をモデルに復興事業の構想・計画段階から、まちづくりの支援を行ってきました。
現在はその実施段階にも研究機関として関わりつつ、グリーン復興のノウハウを周辺地域に展開すべく、森林バイオマスの利活用研究も開始しています。
災害環境マネジメント PG では、これまでの経験を将来の災害の備えに活かすことを目指しており、現地支援を通じてこれまでの研究成果を試行的に適用し、研究にもフィードバックしていくアクションリサーチを進めています。
実際に、昨年の熊本地震など大きな災害発生時にも対応してきました。
巨大地震への備えは国家的課題となっており、災害廃棄物の安全・効率的な処理は早期の復旧・復興を左右する大きなテーマです。
さらに様々な事故・災害時の有害物質への対応など、緊急時の環境管理にどう取り組むか、関係者のネットワークづくりに取り組んでいます。
災害環境研究は震災後スタートした新しい分野ですが、国環研の将来の新たな展開にもつながるような特徴的要素があります。
1 つめは、研究タイプとして、自然・社会科学の様々な研究分野の叡智を集める典型的な横断的研究で、かつ、復興に役立てるという社会ニーズを背景にした、課題解決型の側面が特に強い研究です。
放射性物質は国環研にとっては新たなテーマでしたが、社会的要請に応えるべく、これまでに培った手法を組み合わせ応用・発展させることで取り組んできました