-5:シックハウス症候群や化学物質過敏症の研究目的と実施内容 | 化学物質過敏症 runのブログ

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サブ2 免疫系における化学物質の影響解析
低濃度ホルムアルデヒド曝露では、免疫記憶の情報伝達経路、少なくともリンパ球の増殖、分化、抗体産生の増強などを積極的に促進し、Th1/Th2バランスをかく乱する作用は認めなかった。

ただし、肺胞洗浄液中のIL-1βの低下、血漿中のCCL2産生の低下,脾臓細胞からのCCL2産生の亢進などが曝露により認められた。低濃度トルエンの12週間曝露では、血漿中の総IgE抗体価の有意な上昇がみられ、肺胞洗浄液中のIFN-γ産生の抑制も認めた。

(図4)免疫系を抗原刺激により活性化した後での低濃度長期のホルムアルデヒド、あるいはトルエンの曝露は、抗原刺激の付加による神経成長因子の産生で組織特異的な影響を認め、神経―免疫ネットワークのかく乱作用を誘導していることが明らかとなった。

さらに、新たな曝露系として低濃度のトルエン鼻部曝露を行い、免疫メモリーの産物であるTh2タイプ優位の抗体産生を増強することを明らかにした。
サブ3 体内動態の測定および曝露評価と評価手法の開発
揮発性化学物質の体内動態に関して、トルエンをマウスに鼻部曝露すると、曝露前後で有意な差が認められ、曝露濃度の増加に応じて海馬近傍からSPMEに吸着されたトルエン量は増大していることが確認された。(図5)

SPMEを用いて脳内での揮発性物質を簡便に、短時間で検知する手法を開発できた。

また、生存している個体の脳内でのグルタミン酸やGABAなどの神経伝達物質の変動の検知にも成功した。

in vivo マイクロダイアリシス法は、先のSPMEと組み合わせると生きたままリアルタイムの神経伝達物質の動きと化学物質の体内の濃度とを測定でき、化学物質の濃度と神経伝達の情報の動きとの関連を解析する上で新たな手法として展開できる。
これらの結果は、嗅覚からの化学物質曝露による刺激情報が、神経伝達物質を介した情報伝達系を修飾して扁桃体、海馬、視床下部などの大脳辺縁系に影響を及ぼし、また、海馬からの視床下部への情報伝達が修飾され、記憶情報回路にかく乱作用を生じていることを示唆している。
以上の成果から、低濃度におけるホルムアルデヒド、あるいはトルエン曝露は曝露期間の長期化により嗅覚からの情報伝達回路を介して海馬における記憶に関る機能分子の活性化を生じ、ストレス反応系としての視床下部、下垂体でのホルモン分泌系のかく乱を生じ、動物の学習・行動にもなんらかの変化をもたらされている可能性が考えられる。
本研究成果は、過去の一般毒性に比較して、低用量曝露により引き起こされる神経、免疫・アレルギーを中心とする高次機能への影響を評価し、高次機能に関わる化学物質リスク評価に寄与にする。

また、環境化学物質が高次機能へ与える影響を適切に評価し、化学物質の健康に及ぼすリスクを低減する施策に貢献する科学的知見が提供できる。さらに、次世代、小児、高齢者、有病者、健康影響を受けやすい高感受性集団を対象とした今後の研究への糸口を提供できる。