・過去の人口分布と乗用車CO2排出量の関係
まず、過去の市町村内人口分布と乗用車CO2排出量の関係の分析です。
メッシュ人口規模(人口密度)によって年間一人当たり乗用車CO2排出量が異なると仮定し、a) の過去6時点(1980~2005年)の全国市町村別年間乗用車CO2排出量を市町村人口で除した「市町村別年間一人当たり乗用車CO2排出量」を被説明変数、b) の過去6時点(1980~2005年)の国勢調査全国3次メッシュ人口を用いた「メッシュ人口規模別人口シェア」を説明変数とする回帰式を作成しました。
この推計で得られた結果が図1です。
図
図1 メッシュ人口規模別年間一人当たり乗用車CO2排出量
年次に関わらず、人口規模が大きいメッシュほど年間一人当たり乗用車CO2排出量が少ない傾向が確認できます。
すなわち、人口規模が大きいメッシュでは、公共交通が利用しやすいこと、お店や病院など生活に必要な施設が近くにあり移動距離が短いことから、自動車の利用が抑えられているといえます。
一方で、人口規模が小さいメッシュでは、公共交通が利用しにくく、生活に必要な施設までの距離が長く、自動車に依存していることを示しています。
次に、年次別の変化を見てみます。
1980年では人口規模の大きいメッシュの年間一人当たり乗用車CO2排出量が0.4トン程度であることに対して、小さいメッシュが0.6トン程度で、そこまで大きな差はありません。
しかし、年次が進むにつれて、人口規模の小さいメッシュの年間一人当たり乗用車CO2排出量が大きく増加し、差が拡大しています。
これは、自動車の保有が容易になったことが主要因と考えられます。
なお近年では、人口規模の大きいメッシュでの年間一人当たり乗用車CO2排出量が減少しています。
これは特に大都市圏において、都心回帰や若者の自動車離れなどに代表されるように、利便性の高い場所に住み、自動車をあまり利用しないライフスタイルが選好されてきていることが影響していると考えられます。
将来の人口分布と乗用車CO2排出量の関係
このように近年頭打ちの傾向がみられる乗用車CO2排出量ですが、今後人口減少が加速すると、公共交通サービスが成り立たなくなる、お店や病院といった施設の減少によって移動距離が伸びる、といった理由で乗用車CO2排出量が再び増加する可能性もあります。
そこで、将来の人口分布の変化が乗用車CO2排出量にどの程度影響を与えるのか推計してみます。
ここでは、乗用車の走行距離当たりのCO2排出量が2005年と同じと仮定し、人口分布シナリオによって年間一人当たり乗用車CO2排出量を評価します。
図2は一例として2030年の神奈川県相模原市(平成20年12月時点の行政区域)の人口分布シナリオと年間一人当たり乗用車CO2排出量を分析したものです。
相模原市は東京大都市圏の郊外に位置する人口約70万人の都市で、人口分布の違いが乗用車CO2排出量に与える影響が大きい都市の例となります。偏在化シナリオは、人口規模の大きいメッシュ(特に10,000人以上メッシュ)の人口シェアが2005年より高まる、すなわち、コンパクトシティや集約型都市構造といったイメージのものです。
一方の均一化シナリオは、人口規模の大きいメッシュの人口シェアが低くなる、スプロール現象が進むイメージのものです。
年間一人当たり乗用車CO2排出量は、偏在化シナリオの場合は2005年より減少するのに対し、均一化シナリオでは増加することがわかりました。
人口分布によって年間一人当たり乗用車CO2排出量は15%近い差があることになります。
図
図2 2030年の人口分布シナリオと年間一人当たり乗用車CO2排出量
神奈川県相模原市(平成20年12月時点の行政区域)
上記は人口分布の違いが乗用車CO2排出量に与える影響が大きい神奈川県相模原市の例でしたが、全国の市町村でも程度の差はあれ、同じ傾向がみられます。
市町村の規模やベースとなる2005年の人口分布によって多少差があるものの、概ね偏在化シナリオの方が均一化シナリオより10%程度年間一人当たり乗用車CO2排出量は抑えられる結果となりました。
今後の展望
今回は乗用車CO2排出量の観点から人口分布シナリオを評価しましたが、人口分布を変更すると乗用車CO2排出量以外にもエネルギー需要・廃棄物発生の空間的特性、健康影響、生態系への影響など様々な環境問題にも影響すると考えられます。
他分野の研究者と連携をとり、どのような人口分布が望ましいか総合的に判断するための材料の提供を進めていきたいと思います。
(ありが としのり、社会環境システム研究センター 環境都市システム研究室)