大気中有害化学物質の探索的・迅速同定手法の開発 | 化学物質過敏症 runのブログ

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http://www.nies.go.jp/kanko/news/34/34-6/34-6-05.html


【シリーズ先導研究プログラムの紹介:「先端環境計測研究プログラム」から】
高澤 嘉一
 2015年の6月末に、化学情報の世界的権威であるケミカル・アブストラクツ・サービス(CAS)に登録されている化学物質の数がついに1億個を超えました。

近年、本サービスへの登録物質数は指数関数的な増加を辿っており、およそ2分30秒に1個の割合で新たな化学物質が登録されているそうです。実際に流通する化学物質の数も2万種を超えており、科学技術の発展に伴い、その数は今後ますます増加する傾向にあります。

その一方で、大気や水質、土壌といった私たちのよく知る環境中には、これら化学物質の製造過程や化学物質を含む製品からの放出などを通して多種多様な化学物質が蓄積している可能性があります。

わが国では有害性が強い化学物質を規制する際の難分解性、高蓄積性、長期毒性という判断基準を設けて、個々に規制する方式がとられています。

つまり、環境中に含まれている化学物質をひとつひとつ確かめる作業が必要となるわけです。

前回の研究ノート(国立環境研究所ニュース32巻2号「POPsモニタリングの分析法」)では、国際的な取組優先度の高い残留性有機汚染物質(POPs)と呼ばれる一連の化学物質の濃度を、より正確に求めるための方法を紹介しました。

今回は、POPsのように特定の化学物質を対象とするのではなく、化学物質による環境汚染の多様化に対応するため、環境中に存在する化学物質をできる限り多く見つけ出すための方法(ノンターゲット分析法)について紹介します。

 ここで紹介するノンターゲット分析法は、比較的揮発しやすい化学物質を対象に、試料前処理を伴わず、一回の試料採取と分析によってより多くの化学物質を同時に見つけ出す方法と定義できます。

本法の要点として、(1)測定時にできる限り多くの化学物質をまとめて測定すること、(2)得られたデータから必要とする化学物質の情報を効率的に抜き出すことの2点が挙げられます。

(1)の分離分析技術については、化学物質の分離検出に二次元ガスクロマトグラフ(GCxGC)を接続した高分解能飛行時間型質量分析計(HRTOFMS)を利用しました(図1)。

図1


図1 二次元ガスクロマトグラフ/高分解能飛行時間型質量分析計(GCxGC/HRTOFMS)
GCxGCの内部はオーブン構造になっており、室温+4℃~450℃まで0.1℃間隔で厳密に温度制御ができます。試料導入後、徐々に温度を上昇させることによりGCカラムでの成分分離が促進されます。

このようにして分離された成分は、カラムの出口に接続されたHRTOFMSへ送られてイオン化されます。
 化学物質に限らず、物体や物質はそれぞれ固有の質量をもつわけですが、HRTOFMSは化学物質の質量を気にせずに、広範囲の質量に及ぶイオンを同時に正確に検出できる装置であり、近年、その性能について飛躍的な進歩がありました。

これによってこれまで気付かれなかった低濃度で存在する化学物質や質量の大きな化学物質の測定も可能となり、環境分野における実用性も広がりました。したがって、環境濃度も質量も不明である不特定多数の化学物質を見つけ出すにはHRTOFMSは最適な検出器と言えます。

また、GCxGCでは、2本のキャピラリーカラムの組み合わせにより、検出されるピークの情報量およびピークの分離性能が格段に増しており、検出されるピーク幅も鋭くなるため高感度な分析が可能となります。

(2)のデータ処理については、研究室にて様々なソフトウェア開発を進めており、例えば、精密質量データから特定の構造をもつ化学物質の検索や任意の化学物質の自動検索を実行するソフトウェアなどが挙げられます。

以下に挙げる研究結果は、試料前処理を伴わずに大気捕集後の吸着管をGCxGC-HRTOFMSの熱脱着装置に直接導入して測定を実施したものです。