(2)発症の引き金を引く環境要因:子宮内環境,合成化学物質
遺伝子背景だけでは,発症するのは稀であろう。
これに環境因子が加わり発症するのだが,これらの原因にはさまざまなものがあり,D. O. ヘッブがあげた表 2 の因子が,網羅的である。
「個人ごとに変わる外界からの感覚刺激」「外傷的体験」については,発達障害児の臨床に長年献身しておられる杉山登志郎(浜松医科大学)の著書をご覧いただきたい。
前に述べたように,出産前後のトラブル,双生児など子宮内での栄養補給に問題があり必須栄養物質が不足した場合は,低体重などを伴い,脳の障害が発生することが多い。
ADHD に低体重が伴うことがあるのはよく知られている。自閉症などいわゆる「軽度」発達障害だけでなく,脳神経系の発達障害にはクレチン症のように知的発達が不全なもの,さらに身体的にも影響がでるなど,より重度の心身障害児がいるのは専門家のよく知るところである。
ごくおおまかにいうと,これらの重度の子どもたちと軽度の子どもたちも症状は連続していて多様である。
したがって重度の脳機能発達をひきおこすさまざまな原因も,その原因の悪性度が低ければ軽度の発達障害を発症させる可能性があるといえる。
原因のうち今まで気がつかれなかったものに,本稿で強調している胎児期,新生児期,乳児期に子どもの脳に侵入する合成化学物質がある。
近代工業が,多種多様の化学物質をその毒性にはさしあたりかまわず合成し,使用し,廃棄し,結果として人々(母親を含む)が多様な毒性化学物質に曝露され,それが胎児に複合化学物質汚染をおこすことになった。
化学物質汚染がひどくなる以前は,引き金を引く環境因子も少なかったはずである。
合成化学物質には薬品も含まれる。
妊娠している女性が,つわりの鎮静剤としてサリドマイドを飲んだところ,アザラシ状の上肢をもった奇形児が生まれた。
しかし特定の妊娠週齢のみ飲んだ例では奇形児は生まれず,自閉症の子どもが生まれている。
バルプロ酸化合物でも,同じことがおこった。
また天然物ではあるがニコチンでも,本稿(下)に詳しく述べるアセチルコリン系を標的にした有機リン系,ネオニコチノイド系農薬の発達障害との関係を予測できる。妊娠中の喫煙は,生まれた子どもに ADHD や高機能自閉症になるリスクを高めることが疫学研究から明らかとなっているが,その原因はタバコの主成分であるニコチンであることが,動物実験より強く支持されている。
ウタ・フリスも示唆しているように,歴史的文書に,自閉症と思われる人物が散見されることは確かであるが,稀である。
米国でレオ・カナーが初めて自閉症児の症状を記載したのが 1943 年オーストリアのハンス・アスペルガーがアスペルガー症候群と後に呼ばれるような子どもの症状を報告したのが 1944 年というのは,ちょうど第二次世界大戦の主要当事国で,戦争遂行のため各種工業生産が急に盛んになった数年後の時期に重なっており,偶然ではないのかもしれない。
runより:難しい事が書かれていますが要は「自閉症、発達障害は遺伝ではなく環境化学物質のせい」という事ですね。
実はまだまだ続きます、今日はここまでですね。