・――有機リン系,ネオニコチノイド系農薬の危険性(上)
黒田洋一郎 くろだ よういちろう
環境脳神経科学情報センター
木村―黒田純子 きむら―くろだ じゅんこ
東京都医学総合研究所 脳発達・神経再生研究分野 こどもの脳プロジェクト
日米欧における自閉症,ADHD,LD など発達障害児の増加は著しく,遺伝要因でなく何らかの環境要因が増加の主な原因であることが確定的になってきた。
発症の基本メカニズムは共通で,特定の脳高次機能に対応する機能神経回路の不全と考えられ,どの神経回路(シナプス)形成に異常がおこったかによって,症状が決まる。
これまで明確に主張されたことはあまりなかったが,その増加原因の一つに農薬,PCB などの環境化学物質がある。
2010 年の「有機リン系農薬に曝露された子どもに ADHD のリスクが高まる」という論文を始め,アセチルコリン情報伝達系をかく乱する農薬の脳高次機能発達に対する毒性と発達障害との相関関係を示す疫学データが次々に報告されている2~4。
さらに,ネオニコチノイド系農薬を含めた農薬や PCB など環境化学物質の発達障害との因果関係を示唆する,分子(遺伝子発現など)レベル,細胞(シナプス形成など)レベル,個体(動物行動など)レベルの実験データも数多く蓄積されてきた。
2012 年,米国小児科学会は声明を公表し,米国政府や社会に「発達障害や脳腫瘍など,農薬による子どもの健康被害」を警告した5。
日本における,単位面積あたりの農薬の使用量は世界で一二を争う量であり,近年の発達障害児や引きこもり,切れやすい子どもの増加とほぼ並行している。
『沈黙の春』から 50 年,新しい農薬の被害と農薬対策について,仏政府が「農薬によるパーキンソン病発症を農業従事者の職業病と認定した」6
,「EC ではネオニコチノイドの暫定禁止を決定した」など,最近の情報もまとめる。
1 発達障害児の症状は多様で,機能神経回路(シナプス)形成不全でおこる脳の発達障害には,クレチン症(コラム 1 参照)など重度のものが昔から知られているが,最近注目され日本の「発達障害者支援法」で規定されている発達障害は,比較的 “軽度” のもので,その症状により自閉症(autism),注意欠陥多動性障害(AttentionDeficit/Hyperactivity Disorder, ADHD),学習障害(Learning Disorder, LD)に大まかに分けられている*1