http://www.ibaho.jp/news/hokeninewspaper_201405_kikou.pdf
・茨城保険医新聞 号外(WEB 版) 2014 年 5 月 15 日(1)
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NPO 化学物質による大気汚染から健康を守る会(略称 VOC 研)
内田 義之 津谷 裕子 森上 展安 http://www.vocorg/
1)VOC研理事・ユビキタスクリニック龍ヶ崎院長 2)VOC研理事 3)VOC研理事・㈱森上教育研究所所長
1970年代から欧米ではイソシアネートによる健康への影響、医学的・生物学的並びに疫学的研究が行われており、国際的な研究組織も作られ、極めて多数の研究報告がされている。
それらの要点をまとめた「MDI&TDI」(430ページ)が 2003年に出版されている。
それによると、「初めてこの物質を発見した時には、こんな危険なものが地球上で使えるのだろうかと思った。今では環境に十分注意した管理をすることで健康に配慮しながら使いこなせるようになった」という言葉が書かれている。
しかし最近では、用途が拡大し工場環境ばかりでなく、管理が行き届かない生活地域で利用されることや、新たな発生メカニズムでの重大な健康影響も見つかったために、2013年4月2日~4日の3日間、USA, Potomac, Maryland の国立衛生研究所で、「イソシアネートと健康-過去、現在、今後」が100テーマの研究発表による行われた。
日本では欧米以上に身近にイソシアネートが使用されるようになった(国土面積当たりの流通量は米国より桁違いに多い)。
1978年には「これが身近な街中で使われるようになったら問題である」と書いた総説論文が日本でもあったのだが、ウレタン工場内での疫学調査論文があっただけで、日本の医学研究では長い間ほとんど取り上げられなかった材料である。
まるで鎖国状態のように。昨年の国際会議でも欧米を主に医学・行政及び支援技術分野の関係者400人が集まったというのに、日本からは市民団体が派遣した医師がたった一人出席しただけである。
片や日本の空気環境基準では、「あんな反応しやすいものが空気中にあるはずない」と、測りもしないで無視されていた。
ところが、被害者の訴えで汚染物質種類を調べたところ、大気中やシックハウスの室内からイソシアネートの検出例が少し出てきた。
分析技術が進んだためである。それでようやく、イソシアネートが原因であろうと疑ってきた多くの有症者の苦しみを解く方向が見えてきた。
私どもは医学的に正確な解析記事を執筆する立場ではないが、これまでになかった有害化学物質が大量に環境を取り巻くようになったために起こる疾患について、地域医療に携わる皆様に治療と診断のご参考になればと思い筆をとった。機序についても分かる範囲で書いてみた。
1.暴露経路
経口、吸入、皮膚の3種に分ける。
水と反応しやすいので、経口摂取の場合には、消化管の中の水との反応でアミンや尿素誘導体になって排泄され、健康影響が少ない。
吸入の場合には気道の中の水は少ないので、工業用に使われるポリイソシアネート分子は少なくとも一つ以上の活性イソシアネート基を残したまま肺、血中、赤血球膜を通過して、血漿中のアルブミン、ヘモグロビンなどのたんぱく質と抱合体を作り、全身を巡回する。
経口摂取よりはるかに有害である。
反応が激しく刺激性なので、皮膚・粘膜・目の接触で局部の反応をするほか、感作を生じる。
分子量が大きくて揮発性が少ないメチルジフェニルジイソシアネート(MDI、分子量250.26)などは皮膚接触による吸収の影響も昨年の国際会議で話題になった。
重合が進んで高分子の樹脂となったポリウレタンMDIの板を80℃に加熱した時に 5mg/㎥の濃度で揮発したということからもわかるように、イソシアネートは固体材料になっていてもわずかな温度上昇や機械的作業で分解した分子として環境を汚染し得る。
鋳物鋳型用の砂の接着剤や電気コードの被覆にも使われているので、鋳物工場や電線ハンダ付け工場でイソシアネート蒸気による発症例もある。
また、自動車修理工場でグラインダーで塗料を削る工程での発症例もある。
呈色反応によるイソシアネートの連続モニターで観測したところ、住宅密集地で工事現場から約30m離れて戸を閉めた住宅室内でも工事の時間と関係してイソシアネートが検出されていた。
2.体内分布と体内半減期
放射性炭素14を含むトルエンイソシアネート(TDI)およびMDIを吸入させたラットの実験で、イソシアネートは体内に広く分布し、調べた器官のすべてで検出されたが、とくに強く蓄積するのは気管で、次に食道、消化管、肺、の順に高かった。また、筋肉、腎臓、心臓、血液、肝臓、脾臓からも検出された。血中の大部分は血漿に分布し、ほとんどが生体高分子の付加体(血清アルブミンを含む 70kDa タンパク質付加体)として存在した。
TDIを吸入させたモルモットでの免疫組織学的方法では、TDI付加体が鼻孔、気管、気管支、細気管支の上皮に分布し、気管支細胞洗浄液中のマクロファージでも検出された。
イソシアネートがヒトに及ぼす影響吸入したイソシアネートの体内での半減期は、ボランティアの調査によれば10日から21日であった。