MCS診断と検査の実際
これらの患者の臨床症状はじつに多彩である。
しかしこれらの症状を詳しく問診を行いながら観察していくと、①神経系②免疫系③内分泌系④消化器系⑤その他の異常に大別できる。
患者診断には、詳しい問診およびアンケートで、とくに化学物質との因果関係を聞くことが最も大切である。
一例を挙げると、家は新築か、新しいジュータンを敷いているか、カーテンも新品か、床下に白アリ駆除剤(スミチオン)などを使ったか、家で園芸などを行うか、油絵を描くか、その絵具はシンナーか、新しいエレクトロニクス器具は、スイッチを入れるとフェノール臭はないか等々である。
さらに自分の住んでいる周囲は?。
など100項目近くのアンケート調査が行われ、これで大体の薬物の見当をつける。
そこで疑わしい物質が出た場合、血中、尿中の検出のみでなく特殊なチェンバーに患者を入れて、ごく微量の化学物質とactiveに接触させるチャレンジテストを行う。
たとえば、芳香族化合物にMCSとの因果関係が疑われた場合には、Reaによると、(工)都市ガス、②ェチルアルコール、③フェノール、④塩素ガス、⑤フォルマリン、⑥有機塩素系殺虫剤(たとえばBHC等)、⑦フェノキシ系除草剤(2 , 4ーDなど)、⑧水蒸気(都市水道、井戸水、ミネラルウォーター)、などの物質と接触させて患者の反応を外から見る。
その量はたとえば農薬では、0.003ppm以下で、他は0.025ppm前後でチャレンジを行っている。
このテストによりMCSとそうでないpsychogenicな患者とは完全に識別され、診断を設定し治療が行われることとなる。
次に、Galland (の報告している症例を見ることにする。
彼は化学物質過敏症患者を主に診察している毒物学・生化学専門の内科医師である。
化学物質過敏症状と判断できるケースを400人の疑わしいケースから選ぶ。たとえば主訴に極めて微量の揮発性物質などに耐えられないことが判明した場合、その例を第一の選択として化学物質過敏症患者の疑いとした。
さらに化学物質に接していても、関連する生化学的パラメーターに異常のでないものは除外した。
「対照群」には一般的な疲れ、だるさ等が主訴で訪れ、治療されているアレルギー患者で、大切なことは自分の職場、または家庭での化学物質との接触は否定されている群を選んだ。
患者の既往で臨床経過中に医師による長期薬物投与を受けた人、さらに、精神的な問題のある人は除外したそこで、以下の生化学的パラメターを分析した。
1 .血清自己抗体
2 .
3 . 4 .
血算
T3 , T4 , TSH,甲状腺抗体
血清およ赤血球中のマグネシウム,
亜鉛,
銅,
鉄,
カルシウム,クロームは8は9)
5 .赤血球SOD活性(ESOD) (7・
6 .赤血球グルタチオン過酸化酵素活性(EGPO)
( 19 .21.27 )
7 .血中ビタミンレベル( 131. B2.パントテン酸.
B6. c.葉酸. B12.活性型ビタミンD)
8 .尿中必須アミノ酸
9 .血清,燐脂質,定量的脂肪酸分析
10.血中脂肪酸化物質
11. Epstein-Barrウイルスキ亢イ本に一れらの分当沂はSmith?Kline?Bioscience、その他で行われた。
さて詳細な問診と検査から、前述の400人の患者から、56人の患者が化学物質過敏症と診断された。
その内訳は男性10人、女性46人である。
年齢分布は13 ~ 61歳(平均46歳)である。
患者は多くの食物、一般的なアレルギー原因物質、殺虫剤・除草剤などの環境汚染化学物質に対しての過敏症で強く悩んでいた。
すべての患者は慢性的に具合いが悪く、活気がなく、よく眠れず、その一部の例は原因となりうる物質から遠ざかっても治らなかった。
特徴があったのは、これら不明の疾患のため56人中36 人は何回も仕事をやめたり変更したりして、定職についていなかった。
まず心臓機能の種々なる検査から、とくに心工コー検査にて僧帽弁逸脱症が11人(22 % )に発見された。
その内訳は10人の女性と1人の男性である。甲状腺機能低下が9人の女性( 20 % )に発見され,さらにそのうち5人は甲状腺抗体の明らかな上昇が認められた。
また、4名の患者血清から慢性EBウイルス感染が認められた。
そのうち2名は白血球減少症を呈していた。
トランスアミナーゼの軽度上昇が5名に認められた。
対照群では男性17名、女性37名であり年齢は15 ~ 60歳に分布しており平均は48歳であった。
これらの患者は一例も健康を理由に仕事をやめたり変えたりしていない。
これは大切な点である。
僧帽弁逸脱症は3名の女性に認められ、5名の女性に甲状腺機能低下症が、また甲状腺炎が2名にみつかった。
これらの所見を認めたのは、どちらのグループでも女性患者が圧倒的に多い。
女性の相対的割合はやや化学物質過敏症グループが有意に多い。
化学物質過敏症患者グループの女性は僧帽弁逸脱症、甲状腺機能低下症、甲状腺炎においての割合が有意に上昇している。
対照群の患者のうち2名はEBウイルスの慢性感染が血清学的に認められた。
そのうち2名は白血球減少症が認められたが、トランスアミナー・ゼの上昇を示すものは1名も認められなかった。
以上の所見が通常の内科的な検査で見いだし得た所見である。
化学物質過敏症の研究には栄養学的パラメーターが非常に重要であり、次に項を改めて述べる。