化学物質過敏症の労災認定をめぐって3 | 化学物質過敏症 runのブログ

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4.長引く調査検討期間
 労災の職業性疾病の標準処理期間は、行政手続法第6条及び労基法施行規則により、6ヶ月以内と定められている。長

期未決事案が多い脳・心臓疾患や精神障害も同じ6ヶ月以内とされている。従って、化学物質過敏症についても、労災請求から業務上外決定までは6ヶ月以内であるはずだ。

ところが、神奈川や東京での事案を見ると、2年から3年近くかかっていることがわかる。

化学物質過敏症の労災請求事案はすべて、地方労働局の労災補償課経由で本省協議に上げられる。

調査が長期化している3件について各労働局に問い合わせると、「本省の職業病認定対策室は胆管がん問題が大変で、それどころではないようだ」と、お茶を濁すばかりであった。

 神奈川では2事例ある。

1件は、K化学の品質管理分析業務で化学物質過敏症を発症し、11年2月7日に厚木労基署に労災請求したTさん。

もう1件は、P工場フイルム再生工程での薬品検査で化学物質過敏症になり、11年5月23日に小田原労基署に労災請求したIさん。

Iさんの件は、同年11月18日に神奈川労働局経由で本省協議事案として同省職業病認定対策室に送られた。

Tさんの件は当初、厚木労基署が署段階で業務上外を決定しようとしていた節も窺われるが、12年5月に局に上げられ、同年夏に本省に送られた。

その後、時々追加調査の指示が労働局を通じて各労基署に与えられるのみで、3年近く経過した現在も業務上外決定の気配すらない。

 東京のインクジェットプリンターのサービスエンジニアで化学物質過敏症となったKさんは、12年4月24日に亀戸労基署に労災請求した。

翌年、Kさんが「1年経っても決定が下りないのか!」と同労基署に抗議すると、ようやく13年8月に本省から追加調査の指示がされた。

その指示の内容たるや「インク使用量はどのくらいだったか」というもので、Kさんからインクのサンプルを提供させたとのことだ。

明らかに高濃度・大量曝露かどうかを調査するためのものであり、微量でも発症する化学物質過敏症を認めない厚生労働省職業病認定対策室や「化学物質に関する個別症例検討会」が、いまに至るも「化学物質過敏症の労災を阻む」認定対策室や検討会として機能していることが窺われるのだ。


5.OさんのCS裁判
 今年9月12日、花王和歌山工場で検査分析業務に従事し、有害な化学物質に曝露して化学物質過敏症にり患した」Oさん(46歳男性)が、花王の安全配慮義務違反を問い、約4千7百万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。

Oさんは、今年7月19日に和歌山労基署に労災請求したばかり。裁判勝利のためにも、何としても労災認定を獲ち取らなければならない。

 もちろん、Oさんの労災認定には、「化学物質に関する個別症例検討会」という大きな壁がある。

8月19日、Oさんと代理人弁護士らとともに和歌山労基署に対し、Oさんの事案を本省協議扱いや「化学物質に関する個別症例検討会」の検討事案としないようにと要請した。

 和歌山労基署では、地元の最有力メーカー花王和歌山工場を相手とした裁判絡みの労災請求とあって、雑賀次長出席という異例の対応であった。

「本省への協議はしないように」という要請に関しては、「要望として伺っておく」と、谷本労災課課長が回答した。

この件は2人体制で担当するというのも異例であった。

私たちは、広島高裁岡山支部の判決資料を提供して、判決は、1998年の厚生労働省研究班の石川診断基準を採用して化学物質過敏症を労災として認めたこと、化学物質過敏症が低濃度でも長期間反復曝露によって発症するとして第1審判決の「高濃度曝露又は大量曝露があったとは到底認められない」とする厚生労働者側の主張を退けたことなどを説明して理解を求めた。和歌山労基署も「本省協議扱いするにしても十分な調査をしてほしい」ということについては、わかってくれたようだ。

この交渉後、Oさんの聞き取り調査は毎週に亘って十分な時間をとって行われるようになった。

 従って、Oさんの件を本省協議扱いするかどうかについては、本省に直接要請しなければならない問題と言える。化学物質過敏症の労災認定を阻んでいる「化学物質に関する個別症例検討会」を廃止させることも視野に入れて考えると、現状の本省一括協議扱いを改め、各労基署段階で業務上外の決定ができるようにすることが必要だ。

そのために、厚生労働省に対し、

①化学物質過敏症を労災と認めること、

②各労基署でも業務上外を判断できる基準を示すことを検討させ、実質上、「化学物質に関する個別症例検討会」を廃止に追い込んでいくことが必要だろう。

もちろん迅速に処理することも要請していきたい。

しかし、もっとも重要なことは、患者自らが動くことだろう。

花王を相手にCS裁判を提訴したOさんや、本省協議扱いとされ不当に決定を遅らされているCS患者自身がアクションを起こすことが必要だと思う。

【西田】