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アフリカで開花、関西ペイントの「命を救う塗料」

出遅れた世界市場攻略の秘策

蛯谷 敏蛯谷 敏
2016年10月19日(水)




南アフリカ共和国のヨハネスブルク東部にある終末医療施設、セントフランシス・ケアセンター。

入院する患者に今、小さな奇跡が起きている
 南アフリカ共和国の最大の都市、ヨハネスブルクから東にクルマで約30分。大通りを1本折れると、それまでの喧騒から切り離された閑静な住宅街に入る。その一角にある古い教会の敷地内に、目的の施設はあった。

 「セントフランシス・ケアセンター」。

末期がんやエイズウイルス(HIV)感染者など、余命の限られた患者を対象に、終末医療を施すホスピスである。身寄りのない幼児30人を含む約60人の患者が生活している。

その少なくない数の患者が、ここで最期を迎えるという。

 そんな施設で今、ある小さな “奇跡”が起きている。

 今年2月にホスピスに入院した女性、ミシェル・ハメレさん(仮名、18歳)。

当時既にHIVに感染、発症こそしてはいないものの、免疫力は低下の一途をたどっていた。

入院時の体重は31kg、身長は約130cm。年齢の割に明らかに身長が小さく、咳も止まらなかった。

 通常の患者なら、そのまま衰弱し、やがて病気を発症して亡くなっていく。

ところが、ハメレさんのケースはこれに当てはまらなかった。

ホスピスでの生活が始まると、彼女の体調は劇的に変わったのだ。

「日を追うごとに、健康状態が回復、顔色もよくなり、食欲も出るようになった」と、ホスピスの看護責任者であるウィニー・ドゥラミニ氏は驚く。

入院から8カ月後には体重が52kgにまで増加。止まらなかった咳もほとんど出なくなった。

 回復の理由は、一義的には看護師が施した的確な治療の効果だが、当の看護士は「治療以外にも理由がある」(ドゥラミニ氏)と言う。そして、棟内の壁を指差した。


ホスピス内にはウイルスを不活性化する特殊な塗料が塗られている。ホスピスの代表を務めるシンシア・ディックス氏と看護責任者のウィニー・ドゥラミニ氏

 実は、院内には特殊な塗料が塗られている。

「塗料を塗って以降、多くの患者の体調が改善している」。

ホスピスの代表を務めるシンシア・ディックス氏は言う。

 特殊塗料には、日本のしっくいに使われる消石灰成分が含まれている。

塗ると、表面に無数の微細な孔ができる。

そこにウイルスが吸着すると、細孔内部の高アルカリ状態が、ウイルスを不活性化させる。

細菌、臭いの成分やカビなども同様の仕組みで細孔に閉じ込め、最後は殺してしまう。

つまり、特殊塗料を塗った部屋は、通常よりもバクテリアやウイルスを劇的に少なくできる。

 免疫力が低下したエイズ患者は、通常なら害のない種類のウイルスやカビであっても、病気を発症する可能性がある。

彼らにとって、無菌に近い環境は、それだけで延命効果につながる。

HIV感染者の生活を劇的に改善し、失われていたかも知れない命を救った特殊塗料。実は開発したのは、塗料大手の関西ペイントだ。

日本では、「アレスシックイ」という名称で2008年に発売している。

自然素材として古くから用いられてきたしっくいの機能を組み込み、住宅やオフィス向けの高付加価値塗料を展開している。

一度塗ると、効果は7~8年ほど持続する。

高級ホテルや高級列車の車内などにも使われている。

 関西ペイントは当初、消臭やカビ防止効果をしっくい塗料の訴求点としてきたが、その後の研究によって塗料がそれ以上の効能を持つことを発見した。科学的に検証するため、2015年に長崎大学熱帯医学研究所と提携し、ウイルスやバクテリアへの効果について実験を重ねた。

 結論は関西ペイントの予想を超えるものだった。HIVのほか、エボラウイルス、鳥インフルエンザウイルスなどにも効果があることが分かったのだ。

成果は昨年11月、日本ウイルス学会学術集会でも展示している。

 長崎大学との検証結果を受けて、関西ペイントはしっくい塗料の新たな販路開拓の検討を進めている。

それが、アフリカを代表とする新興国への展開だ。「社会問題となっているHIVやエボラウイルスなどの感染症に対して、塗料を使った予防策を政府関係者などに提案している」と関西ペイントの赤木雄執行役員は言う。

 この計画を大きく後押ししたのが、冒頭のホスピスでの成果だった。

南アフリカ日本大使館からの依頼

 「しっくい塗料をホスピスに塗っていただけませんか」

 2015年、関西ペイントに依頼が舞い込んだ。

依頼主は、南アフリカの日本大使館だった。

それ以前、関西ペイントの赤木氏は同大使館の廣木重之大使にしっくい塗料の説明をしたことがあった。

「塗料の効能について、大変興味を示されていた」と赤木氏は振り返る。

その後、南アフリカ大使館は古くから関係があったセントフランシス・ケアセンターの改修を、ODA(政府開発援助)を通じて支援することになった。

ここで、しっくい塗料を塗るというアイデアが生まれた。

 関西ペイントにとっては、実際の効果を調べるには願ってもない機会だ。

申し出にすぐに応じ、実際に塗る際には関西ペイントの社員もホスピスに駆け付けた。
記者も実際にホスピスを訪れ、院内を歩いた。

湿気を吸収しているからだろうか、塗料を塗った部屋は一様に涼しい。

特有の陰鬱した雰囲気はあまりなく、むしろ清潔で明るい印象を持った。

日差しを浴び、笑みを浮かべながら佇む患者の姿が印象的だった。

 世話役の看護士も、塗料の効果を実感する声を多く聞いた。

彼女たちは「患者の体調は目に見えて改善している」と口を揃える。

院内の雰囲気も随分と明るくなったと言う。

 もともと関西ペイントは、自動車向け塗料ビジネスに強く、消費者向けの建築用塗料での存在は小さかった。

海外市場拡大を目指し、同社はアフリカを始め世界各国で建築向け塗料ビジネスを強化している(詳細は、2016年10月17日号の企業研究を参照)。

その意味で、しっくい塗料は海外展開の強力な武器となる可能性を秘めている。