・2013 年度 実施状況報告書(基金分)
研究概要
遺伝子型相関解析の結果、シックハウス症候群の患者群のneuropathy target esterase(NTE:PNPLA6遺伝子にコードされる)の酵素活性が健常人に比べて高く、また患者群に特徴的な遺伝子型が存在することを明らかにした。
環境要因の代表とされる有機リンに高感受性のニワトリと発生工学面で優れた遺伝子操作マウスを用いてシックハウス症候群発症のメカニズムを追求し、遺伝子と環境の相互作用に着眼した、新しい環境医学研究を開拓することを目的とする。
1.NTE(PNPLA6遺伝子産物)高発現細胞の作製(木村、梶原)一時的な高発現をCAGプロモーターを用いて実現すると共に、エピゾーマルベクターを用いてヒト胎児腎臓由来のHEK293細胞において20倍の活性を持つ細胞を株として樹立出来た。以後の実験のためにN末、C末にHIS-Tagを付加した株も同時に樹立し、高発現を確認した。
2.高発現細胞株でのDDVP感受性(木村、梶原)高発現細胞株の増殖に特に異常はなく、また有機リンの一種であるDDVPの感受性はもとのHEK293細胞株と変わるところはなかった。
3.DDVPによる高発現細胞でのNTE酵素活性変化(梶原、木村)高発現細胞において増殖に影響を与えない10μMDDVP投与を行ったが、NTE酵素活性は激減し、その後時間を経ると酵素活性が回復する傾向が見られた。
4. マウスを利用したpnpla6遺伝子の機能解析(大塚、梶原、木村、坂部)発現を保証できる効率的な独自に開発した遺伝子導入マウス系を用い、8系統を得た。
臓器あるいは発生時期でのNTE活性を測定し、臓器による差はあるもののいずれの場合も非遺伝子導入マウスの数倍以上の活性上昇を認めた。
ただし、遺伝子の伝達率やモザイク発現の例から、極度な高発現は個体レベルでは何らかの悪影響を生み出すと考えられる。
現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)
おおむね順調に進展している
理由
目的に向かっては順調に研究が進んでいる。特にトランスジェニックマウスが系統化出来たことは大きい。
今後の研究の推進方策
いくつかの実験系を提示しているが、我々が作製したトランスジェニックマウスに有機リンを投与し、急性期反応を調べると共に、OPIDNの症状が発生するかどうかを検証することが、この疾患を解析するためには一番重要と考える。
また、高発現細胞株を樹立出来たことから、有機リンが結合したNTEの質量分析等を可能とする道が開けた。
今後は個体レベルデの解析と分子的な解析を中心に進めたい。