3.人体数値モデルにおける全身平均SARの比較検証
図4 NORMANモデル
前項の結果を踏まえ、解剖学的人体数値モデルに対して全身平均SARのFDTD計算を実施し、同じ人体数値モデルによるDimbylowの計算結果[2]と比較・検証を行った。
人体数値モデルは、NRPBで製作された欧州人モデルであり、身長176cm、体重73kg、38種類の生体組織で構成されており、2mmの分解能を有する。
この数値モデル(以降、NORMANモデルと呼ぶ)を図4に示す。
なお、各生体組織の電気定数は文献[9]から引用した。
図5に本研究とDimbylowの計算条件を比較して示す。
Dimbylowは共振周波数付近ではNORMANモデルを4mmの分解能に再構築している。
また、吸収境界条件は6層のPMLを用い、モデル表面から吸収境界面までの距離は2セル(共振周波数付近:8mm、GHz帯:4mm)とした。
それに対し、筆者らはNORMANモデルを2mmの分解能のままで用い、吸収境界条件は12層のUPMLを用いた。
また、モデル表面から吸収境界面までの距離を前章の検討に基づき70セル(140mm)とした。
図5 計算条件の比較
図6に、図5 a)の条件で、わが国の電波防護指針の電磁界強度指針値(管理環境)[4]における全身平均SARの周波数特性を示す。
また、[2]にてDimbylowらが図5 b)の条件での計算結果を元に換算した結果も併せて示す。
なお、わが国の電波防護指針[4]によれば、電力密度は30~300MHzでは1mW/cm2、300~1500MHzではf[MHz]/300mW/cm2、1500MHz以上では5mW/cm2となっている。
図から、両者の周波数特性の傾向はよく一致し、70MHz付近で全身共振による全身平均SARのピークがみられ、2GHz付近では電力密度指針値の増大によるもう一つのピークがみられることがわかる。
なお、両周波数帯での人体表面SAR分布を図7に示す。
図から、共振周波数帯では、身体の深部まで電波が吸収され、首・膝・足首付近で高くなること、それに対しGHz帯では、電波吸収は身体の表面のみで、一様に吸収されること、などがわかる。
つぎに、全身共振周波数帯とGHz帯における筆者らの全身平均SARの計算結果をDimbylowの計算結果を基準として、その差異を表2に示す。
表から、全身共振周波数帯では両者は偶然にもよく一致していることがわかる。
これは、共振周波数では誤差が大きくなるものの、第2項で述べたように人体の場合は70MHzと周波数が低く、Dimbylowの計算条件のように解析空間が狭く、人体モデルから吸収境界面までの距離を数セル離した程度でも十分な計算精度が得られたのだろうと筆者らは推察する。
一方、GHz帯においては、Dimbylowの計算結果に比べ、筆者らの計算結果は10%を超え最大で+16.2%にも達することがわかる。
GHz帯での相違は、Dimbylowの計算条件のように人体モデルから数セルしか離れていない場合には吸収境界面からの反射による影響が大きく現れたことに起因すると考える