9.2 妊娠ラットの生殖機能(妊娠維持)および胚・胎児発生
に対する2GHz帯電磁波ばく露の修飾作用
Ⅰ 要 約
携帯電話等で用いられる電磁波(2GHz帯高周波電磁波)の頭部への局所的ばく露による妊娠ラットの生殖機能(妊娠維持)および胚・胎児発生に対する影響を検討する目的で、妊娠ラットに器官形成期である妊娠7日から17日まで2GHz帯高周波電磁波(脳平均SAR=0.67および2.0W/kg)を照射し、胎児の検査を行った。
照射は、妊娠ラットを妊娠7日から17日まで保定器に入れ、電磁波ばく露箱内(暗条件下)で1日1.5時間、午前中に1回行った。
対照群として保定器に入れるが照射しない群(偽ばく露群)および、保定器に入れない群(無処置対照群)を設けた。妊娠ラットについては妊娠期間中(妊娠7~20日)毎日体重および摂餌量を測定し、妊娠20日にエーテル麻酔下にて安楽死後、帝王切開を行った。
帝王切開時に肉眼的病理学検査を行い、妊娠黄体数、着床痕数、生存胎児数、胚・胎児死亡数を調べた。
生存胎児は性別判定、胎盤重量測定、胎児重量測定および外表観察を実施した。さらに、内臓検査および骨格検査を実施した。
照射期間中、妊娠ラットの一般状態、体重および摂餌量いずれにおいても異常は認められず、肉眼的病理学検査においても電磁波ばく露の影響は認められなかった。
帝王切開時の検査において、生存胎児数は、無処置対照群と比較して偽ばく露群で有意に多かったが、偽ばく露群と電磁波照射群との間には差は認められず、電磁波ばく露の影響はないと考えられた。
また、妊娠黄体数、着床痕数、胚・胎児死亡率、生存胎児性比、生存胎児体重、生存胎児胎盤重量および生存胎児外表異常率いずれにおいても電磁波ばく露の影響は認められなかった。
さらに、胎児の内臓検査および骨格検査(骨化進行度を含む)においても電磁波ばく露の影響は認められなかった。
以上、携帯電話等で用いられる電磁波(2GHz帯高周波電磁波)の頭部への局所的ばく露による妊娠ラットの生殖機能(妊娠維持)および胚・胎児発生に対する影響を検討した結果、電磁波ばく露の影響は見られなかった。
Ⅱ 研究目的
この試験は妊娠ラットの生殖機能(妊娠維持)および胚・胎児発生に対する2GHz帯高周波電磁波の頭部への局所的ばく露の影響を検討する目的で、妊娠ラットに妊娠7日から17日まで2GHz帯高周波電磁波を1日1.5時間照射し、胎児の検査を行った。
Ⅲ 試験方法
1. 電磁波照射条件
周 波 数: 2GHz(1.95GHz)
デジタル方式: W-CDMA方式
照射レベル: 脳平均SAR(Specific absorption rate, 比吸収率)=0.67およ
び2.0[W/kg]
2. ばく露装置および保定器
「経胎盤的N-ethyl-N-nitrosourea誘発中枢神経系腫瘍発生に対する2GHz帯電磁波ばく露の修飾作用:長期電磁波照射」[㈱DIMS医科学研究所試験番号0302]において使用したばく露装置および保定器
3. 試験系
動物種: ラット
系 統: Crl:CD(SD)(SPF動物)
性 : 雌
週 齢: 10週齢、入荷時妊娠2日(照射開始時妊娠7日)
購入(使用)数: 88匹(80匹)
動物入手日:0512Aロット 2005年6月23日 22匹(20匹)
:0512Bロット 2005年7月28日 22匹(20匹)
:0512Cロット 2005年8月11日 22匹(20匹)
:0512Dロット 2005年8月25日 22匹(20匹)
実験は4回(A,B,C,D)に分けて実施した。
供給源: 日本チャールス・リバー㈱
[所在地:〒529-1633 滋賀県蒲生郡日野町下駒月735番地]
10週齢で交配を確認したCrl:CD(SD)系雌ラットを妊娠2日で入手し、5日間の検疫・馴化期間に体重測定(群分け体重を含め2回)および一般状態(1日朝夕2回)の観察を行い、妊娠7日で実験に使用した。
なお、検疫・馴化期間中、一般状態には異常を認めなかった。
実験開始時の動物の体重範囲は各ロットそれぞれについて平均体重の±20%以内とした(0512Dロットの動物番号0512059については、1g弱外れていたが、わずかであり問題ないと判断した。)。
実験開始時における0512Aの体重は241g~325g、0512Bの体重は245g~333g、0512Cの体重は266g~323g、0512Dの体重は265g~354gであった。
試験に使用しない残りの動物は、実験中に死亡などでばく露装置内の保定器にセットする動物が不足した場合に、照射条件を同じにするために使用するダミー動物として飼育した(動物番号:0512Aロット; 0512101, 0512102、0512Bロット; 0512103, 0512104、0512Cロット; 0512105, 0512106、0512Dロット;0512107, 0512108)。
ダミー動物は一般状態の観察は行ったが、体重および摂餌量の測定は行わず、試験成績には反映させなかった。ダミー動物は、該当ロットの動物の解剖時にエーテル麻酔下で安楽死させた。
なお、照射期間中に死亡など異常を認めなかったので、ダミー動物は使用しなかった。
Crl:CD(SD)系ラットを選択した理由は、生殖発生毒性試験に一般に使用されており本試験の目的に適しており、微生物学的に統御され、遺伝的に安定であることが知られているからである。