2.3 ODC発現の測定方法
(1) 高周波ばく露または熱処理(TPA(±))
ばく露条件
ばく露周波数:2.45GHz(連続波)
S A R:5、10、20、50、100および200W/kg
ばく露時間:連続2時間
熱処理条件(陽性対照)
温度:38、40、42℃および44℃
時間:2時間(連続)
(2) 細胞を回収し、細胞数を測定
(3) 細胞数を調節する(106個/200μℓ)
(4) TritonX-100(0.05%)に細胞を浮遊し、冷却する(4℃、15min)
(5) PBS(-)で2回洗浄してゼラチン(0.1%)およびODC抗体(500倍希釈)と混合する。その後、冷却する(4℃、30min)
(6) PBS(-)で3回洗浄してFITC標識IgG二次抗体(500倍希釈)を添加し、30分間静置。
(7) PBS(-)で3回洗浄後、顕微鏡下でチェックしてからフローサイトメーターでODC発現を測定。
(結果)
細胞増殖に及ぼす高周波ばく露の影響結果を図3に示す。
ODC発現測定について、フローサイトメトリー解析の例を図4に示す。
高周波ばく露ならびに熱処理によるODC発現の結果を図5に示す。
3. 低出力高周波ばく露による小核形成評価実験(REFLEX報告の予備的検証実験)
(1) 使用細胞:HL-60細胞
(2) ばく露条件
ばく露周波数:2.45GHz(連続波)
平均S A R:1.3、1.6、および2.0W/kg
ばく露時間:24時間
(3) 3×105個の細胞 を高周波ばく露用シャーレに播種し、一晩放置
(4) 高周波ばく露を行った後、トリプシン処理し、Cytokalacin B入り培養液(最終濃度 3μg/ml)で希釈。φ10 cm シャーレに播種し、36時間培養
(5) トリプシン処理後、細胞回収。2.7×104cells/mlに調整
(6) サイトスピン(900rpm, 5min)にて細胞をスライドガラスに展開
(7) 酢酸:メタノール(3:1)にて固定
(8) 0.2μg/ml PI(Propidium Iodide)20μlで染色。カバーガラスで封入後、顕微鏡観察
(9) 二核細胞を1000個のなかから小核のあった細胞をカウント
(10) 統計処理により有意差を検定し、EUのREFLEXプロジェクト(周波数:
1800MHz)の結果と比較検討
(11) Fisher PLSD(p<0.01)の統計処理にて有意差を検討
(結果)
小核形成の例およびREFLEXプロジェクトと本研究における小核形成頻度の結果は図6および図7に示す。
4. マイクロアレー法を用いた高周波ばく露によるヒトの遺伝子発現に及ぼす
影響(予備的実験)
(1) 使用細胞:ヒト神経芽腫A172細胞
(2) 熱処理条件:43℃2時間
(3) 4.5×105個の細胞を25 cm2フラスコに播種し、10% FBS含有DMEM培地中37℃
2日間培養後、43℃2時間熱処理
(4) QIAGEN RNeasy Mini Kitを用いてtotal RNAを抽出(A260/A280>2.0)
(5) Ambion Amino Allyl MessageAmp aRNA Kitを用いて、アミノアリル基修飾部位を有するanti sense RNA(aRNA)を増幅
(6) 反応性蛍光色素によりaRNAを蛍光標識(熱処理:Cy5、非熱処理:Cy3)
(7) 蛍光標識したaRNAをフラグメンテーション
(方法3~7を簡略化し、図8に示す)
(8) DNAチップ研究所オリゴヌクレオチドチップAceGene Human Oligo Chip 30K(ヒト30,000遺伝子)に、蛍光標識したaRNAを50℃18時間ハイブリダイゼーシ
ョン
(9) Virtek ChipReader(pixel resolution 10μm、デュアルレーザー)を用いて蛍光強度を読み取り、Scanalytic MicroArray Suiteで蛍光強度解析
(10) Tigr MIDAS, MeV softwareによって、蛍光強度解析データをLOWESS正規化およびSignificance Analysis of Microarray(SAM)解析
(方法8~9を簡略化し、図9に示す)
(結果)
43℃2時間の熱処理により発現が誘導(増加)された可能性の高い遺伝子
(Induced Genes)リストを表1に、また、抑制(減少)された可能性の高い遺
伝子(Repressed Genes)リストを表2に示す。
Ⅲ 結果のまとめ
1. 高周波ばく露による形質転換(トランスフォーメーション)評価実験
平均SARが50W/kgおよび100W/kgにおける高周波間欠ばく露( ピークSAR:
300W/kgおよび900W/kg、2.45GHz、2時間)により、マウス由来C3H10T1/2(clone 8)細胞における形質転換(トランスフォーメーション)の増加は認められなかった。
2. 高周波連続ばく露によるODC発現評価実験
種々のSAR(5W/kg~200W/kg)にて、マウス線維芽細胞由来L-929細胞に2時間高周波を連続ばく露した場合、SARが20 W/kg以下では、ODC発現への影響は認められなかった。
しかしながら、SARが50W/kg以上で、有意なODC発現の抑制が観察された。
同時に、陽性対照の熱処理40℃以上でもODC発現が有意に抑制されており、高SAR(50W/kg以上)でのODC発現抑制は、主として熱の影響と考えられる。
3. 低出力高周波ばく露による小核形成評価実験(REFLEX報告の予備的検証実験)RELEXプロジェクトで陽性効果として報告された、低出力(SARは1.3、1.6、および2.0W/kg)高周波ばく露による細胞の小核頻度上昇に関して、予備的な検証実験を行った。
細胞は同系統のヒト白血病由来HL-60細胞を用いた。
REFLEXとの周波数は異なり(REFLEX: 1800MHz、本研究: 2450MHz)、高周波のSARでのみの比較実験であるが、本研究結果から、小核頻度の上昇は認められなかった。
なお、本研究は予備的なものであり、今後実験回数を増やし、小核頻度への影響についてはさらに詳細な検討を要する。
4. マイクロアレー法を用いた高周波ばく露によるヒトの遺伝子発現に及ぼす
影響(予備的実験)
ヒト神経芽腫由来A172細胞を用いて、マイクロアレー法によるヒト遺伝子発現への影響について、予備的実験を行った。
43℃2時間の熱処理により、遺伝子発現が統計学的に有意に増加した可能性が高いと判定された遺伝子13、また減少した可能性が高いと判定された遺伝子3を得た(False Discovery Rate中央値14%)。
発現が増加した可能性が高いと判定された遺伝子の中には、hsp70を含むいくつかの熱ショックタンパク遺伝子が含まれていたが、発現が減少したと判定された遺伝子産物の機能は不明なものがほとんどであった。
この予備実験から、今回実験したマイクロアレー法はヒト遺伝子発現の解析に有用であると考えられ、高周波ばく露によるヒト遺伝子発現への影響について、解析を推進する必要がある。