-ラスト:シックハウス症候群【インタビュー】坂部 貢氏 | 化学物質過敏症 runのブログ

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●シックハウス症候群をめぐる状況
――身の回りに化学物質はたくさんありますが。

坂部 食品などもそうですね。

ただ「あれも駄目,これも駄目」としてしまうと精神的な負担が大きいので,患者さんには「思い詰めるのはやめなさい」と言っています。

生活からすべて排除できる人はよいですが,現実的それは不可能に近いことです。

患者さんの中には,たまたまどこかで食品添加物として有害化学物質を取ってしまった時に「今までの努力がぜんぶパアになったんじゃないか」と落ち込んでしまう方がいます。

そのような時は,「朝に添加物の多そうなものを食べたら,昼間はちょっと気をつけましょう。1割でも2割でも1日の量を減らせば,10日でまる1日分得したことになりますよ」と話しています。
 またシックハウスの場合,最も大事なのは換気です。

建材から出てくる場合は有効な換気システムを作ることと,何が原因かを特定して,それを改善すべく相談して取り替えることです。

その後にもう一度空気の測定をして,本当に値が低くなっているかどうかを確認することです。これが最も大事です。

発症のメカニズム
――発症のメカニズムについて,研究が進んできたと聞きます。
坂部 だいぶわかってきました。

これまで報告されているもの1つとして,皮膚・粘膜系における求心性無髄神経線維を介してサブスタンス-Pなどのタキキニンが分泌され,これに連動して肥満細胞から化学伝達物質の放出が惹起されることがホルムアルデヒドなどでよくわかっています。

また,嗅粘膜を介した大脳辺縁系の情動反応のメカニズムについても米国を中心として数多く報告されています。

さらに,アルコールに強い・弱いと同様に,シックハウス症候群や化学物質過敏症の方に特徴的な薬物代謝酵素系の遺伝子多型があるかどうかという研究も行なわれています。

症状の出る人と出ない人の遺伝子多型を調べると少し差がある,という興味あるデータが出始めています。遺伝子多型の検討は,慎重に進めなければならず,結論が出るにはもうしばらく時間がかかると思いますが……。
 ただ,基礎研究が少し後れているのは確かです。環境から起こる病気は,先に患者さんがいて,それに臨床が気づき対応しながら病気の本体に迫っていくから,どうしても研究には時間がかかります。

水俣病でも最初は「水俣の奇病」と言われていたのですから。

医学教育で早くから学ぶ
坂部 この疾患については,十分な啓蒙活動をして,医学教育に取り入れて,医学生の頃から環境による健康障害に関してのセンスを磨くことが大事ではないでしょうか。
 医師は原因と結果がはっきりサイエンスとしてわかるものでないと興味を持ちませんので,「こんな病気あるの?」と思われるのは,ごく自然のことです。だからこそ,医学教育が大切です。
 北里大では臨床実習で,私たちのセンターに毎週8-10人ずつきますので,病気の概念や,実際にホルムアルデヒドを学生さんにごく少量負荷して(肉眼解剖実習より遥かに少ない量です),脳の血流量の変化を見てもらいます。

特に医学生は,解剖実習の際にホルムアルデヒドの大量曝露を経験しているので,文系の学生さんよりもホルムアルデヒドの負荷試験をすると陽性反応が出る人が多いです。

そういう意味で,医者は不健康ですね。

多動症と化学物質
――多動症の子どもと化学物質との関係が指摘されていますね。
坂部 妊娠中の母親の血液中の汚染(鉛,有機塩素化合物など)が高値だと子どもの多動症,学習障害が多いという報告があり,相関がありそうです。

ただ,新しい校舎,あるいは授業で使うような揮発性の化学物質を吸って発症するシックスクールで多動症になるかどうかは,サイエンスとしてはまだ不明な点が多いです。
 薬なども人工化学物質で,その作用の有用な部分を使っているだけの話です。

ですから不必要に薬を服用することは化学物質による身体負荷量を増やすことになります。

しかし,その一方で,小児で40℃近くの熱で脱水も起こって危ない時に,母親が「化学物質過敏症の子どもだが小児科からもらった解熱剤を飲ませてよいか」と電話をかけてくることがあります。

「いま最も必要なのは,過敏症ではなく,今のお子さんの身体状況を改善することだから,小児科の先生のご指示通り,坐薬を入れて水分を十分に補給しなさい」と言ったこともあります。

「化学物質がすべて駄目だ」と思い込むことも,逆にまた危険な場合もあります。

環境問題と健康生涯
坂部 シックハウスの建材だけの問題ではなくて,現在の環境問題を医師としてどう考えていくかということは重要なことです。

例えばダイオキシンの問題などは,代表的なものです。

ダイオキシンと免疫系の撹乱について,かなり細かいことがわかってきました。

残留農薬などもそうで,30年前に使用禁止になった農薬の一部は,いまだにわれわれの血液の中から出てきます。
 重金属も同様に,砒素,鉛,水銀など海洋汚染で,特に日本のような島国で,魚を多く食べる民族の中には,欧米人よりも何倍も重金属が多い人がいます。

すべてではありませんが,そういう人ほど残留農薬も高くて,化学物質に汚染されていることが多いという傾向も指摘されています。
 産業革命より後に人間が作り出した化学物質に対して,厳密な意味での代謝系をわれわれは持っていません。

今は,たまたま解毒酵素の作用スペクトルが広いために,化学物質を一緒に解毒してくれているだけなのです。

遺伝子が発現してあるものを解毒する酵素が出てくるまでには相当の年月が必要です。最低でもあと1000年ほどかかると言われています。それまでに人類が滅びてしまうかもしれませんね。
 便利さを追求すれば,当然有害なものも出てきます。

われわれはどう化学物質と共存していくか,どう折り合いをつけるかが,いまの環境学のメインテーマにもなっています。
 そのような背景をもつ化学物質による健康障害は,通常の治療だけでなはなく,心理社会的なストレス・マネジメントやメンタルケアなども必要になってくる複雑な症候群なのです。
―――本日はありがとうございました