http://www.sankei.com/life/news/140521/lif1405210026-n1.html
2014.5.21 10:02更新
原因不明「慢性疲労症候群」の患者会、社会の理解求め交流会や署名活動
ある日突然、極度の疲労感に襲われ、倦怠(けんたい)感や頭痛が続き、日常生活が送れなくなる-。
発症メカニズムが不明で治療法も確立されていない「慢性疲労症候群」(CFS)。国内の患者は30万人以上と推計されるが、「怠けているのでは」などと周囲に理解してもらえずに孤立し、精神的に苦しむ患者も多い。
こうした中、患者同士が悩みを話し合う「患者会」の発足や患者支援に向けた動きが少しずつ広がっている。(安田奈緒美)
◆指一本動かせない
5月、大阪市阿倍野区の区民センターで、CFSの患者会「希望の会」の交流会が開かれた。
同会は昨年10月に発足。
この日は患者や家族など14人が近況や悩みを話し合っていた。
京都市の主婦、井上佐和子さん(50)は22年前、原因不明の高熱で通院し、CFSと診断された。
日中は横になっていることが多く、炊事、洗濯は夫が担っている。
朝、起き上がることも指一本動かすことがつらい日も。
「外になかなか出られず、社会と隔絶されています。病気への理解を深めてもらうため、まずは患者同士でつながりたい」と話す。
患者の家族も参加。兵庫県内に住む女性(34)は中学3年生の娘が小学5年生のときCFSと診断され、通学できなくなった。
「親子で怠けているのでは、と精神論を持ち出して責められることもあり、周囲に相談できなくなった」
CFSは、ウイルスや細菌感染、過度なストレスなど複合的な要因が引き金となり、神経系、内分泌系、免疫系が変調し、機能障害を起こすと考えられているが、詳しいことは分かっていない。
国内には専門医も少なく、CFSに詳しい渡辺恭良・理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター長は「CFSは、主観的な疲労を聞き取り、自律神経の機能を調べる検査などを重ねて診断するため、時間がかかる。熟練した専門医が必要」と話す。
就職など社会的活動が行えないことも患者に共通した悩み。
交流会に参加した患者のほとんどが仕事に就くことができない状態だ。
高校時代に発症した20代男性の両親は「状態の悪いときの息子は、ほぼ寝たきり状態で、このままでは社会で働くことはできない。親がいなくなるとどうやって生きていけばいいのか」と悩む。
医療費助成の対象となる厚生労働省指定の難病にも含まれていない。
◆ライトアップで発信
厳しい現状の中、理解を深めてもらおうと、患者側もさまざまな活動を始めている。
患者会「筋痛性脳脊髄炎の会(ME/CFSの会)」(本部・東京都練馬区)は、昨年施行された「障害者総合支援法」で医療費助成の対象とならなかったため、見直しの際には対象に含まれるよう署名活動を行ってきた。
同会は「6月中には請願書を国会に提出したい」という。
慢性疲労症候群の理解を広める会」(本部・青森市)も今月12日の世界啓発デーに合わせ、青森市の観光名所ともなっている15階建ての正三角形の建物「青森県観光物産館」を、病気のシンボルカラーであるブルーでライトアップするイベントを開催した。
「希望の会」を主宰する宇佐美智子さん(34)は「困難の多い患者の声を社会に届け、少しでも患者が暮らしやすい社会にしたい」と話している。
■発症メカニズム解明へ研究進む
発症のメカニズムが判明していないことがCFSの予防、治療法を難しくしているが、少しずつだが、研究は進んでいる。
今年4月、理化学研究所などは「患者の脳内で炎症が広い領域で生じていることを確認した」という研究成果を発表した。
PET(陽電子放出断層撮影)の画像によって患者の症状と炎症の生じた部位を調べると、頭痛や筋肉痛が強い場合は帯状皮質と扁桃(へんとう)体の炎症が強く、また、抑鬱症状は海馬(かいば)(大脳辺縁系の一部)の炎症と相関していることなどが分かった。
脳内の炎症が起こっている部位で脳機能が低下し、CFSの症状を引き起こしていることを示唆している。