化学物質過敏症という病気になって
今年、大学二年生になります。
大学に入ってからは、だいぶ体調はいいです。
ふつうに電車とかに乗れる、国道沿いの道を歩く、冷暖房のついている教室で授業を受ける……そんなことができるようになっています。
ぼくは、化学物質過敏症になる前から、制汗剤とかを使っていなかったので、発病しても個人の暮らしとしてはそう制限された感じはなかったですね。
もちろん、自分の身を守るために不自由なことは多少ありました。
マスクは診断があってからずっとしていましたし。
ガスマスクはさすがにちょっと見た目も抵抗ありましたけれど。仕方がないという気持ちが大きかった。
それに、やはり健康な人には多少嫉妬はしますよね。
でも、諦めるという気持ちはまったくなかったです。自分のできる範囲でふつうのふだんどおりの暮らしをするのがあたりまえな
んで……どうだったかなあ。
以前もいうほど、悲観的ではなかったかな。
当時の自分がインタビューされたら、またぜんぜんちがう答えかもしれませんね。
いまはちょっと楽観的に受けとめているかもしれません。
親が自分よりきつかったかもしれないですね。子どもっていましか見ないじゃないですか。
親はこの子、この先どうなるんだろうとか、そんなことまで考えてしまうので、たぶん重く受けとめますよね。
註10
症状がつよく出ていた頃は、学校や校外学習などでも、ガスマスクを使ってしのいだ。いまは、これは!? と感じたときにガーゼのマスクに活性炭シートをつけて使っている。化学物質過敏症のマスクは数種類市販されているけれど、人によって反応してしまい、使えないものもある。
ここ数年、香料を添加した洗剤や柔軟剤で不調になる人が多いそうですね。でも、過敏症になると、結構、鼻は便利です。
嗅覚は大事。
鼻が匂いを感知してくれると逃げることができましたから。
ぼくは、臭いのしないものがいちばん怖かった。
気がつかないあいだに気持ちが悪くなってしまう。
シンナー臭はある意味わかりやすくて助かります。
実際、本人が知らないだけで、いまの時代「化学物質過敏症」は多いのではないですか。
でも、まだ「化学物質過敏症」というと「花粉症?」と聞き返されます。
いまは、この化学物質過敏症という名前を知ってもらうだけでもいい、と思っています。
そして、自分の知らないことを「ないこと」にしないでほしい。
自分がその病気を知らないから仮病なんじゃないかとか、神経質なだけじゃないかとか……症状よりそういうことに苦しんだかな。
まず、そこが変わらないとどうにもならないかな。
註11
化学物質過敏症患者は、電車やバス、タクシーなどで使われている消臭剤、人々の香料などで発生する化学物質で、反応を起こす。体調の悪いとき、友人の母に「車に乗って」と誘われたが、その車に芳香剤があり、その人の化粧や香水も自分の身体は受けつけられなかった。この病気を理解するという難しさを感じた思い出。