横須賀湾にほど近い場所に、本間さんの会社の自社ビルがありました。
「タイムトラベラーさん。お久しぶりです。うちのメニューの提供先は40店ほどになりました」
ところで、どんな人がお店を訪ねてきますか?
「たとえば、元力士さんというちゃんこ屋の大将から、こんな電話をいただきました」
力士を引退し、ちゃんこ屋を経営していた。
お客さんが帰るとき、ありがとうございました、と頭を下げる。
すると、お客の視線が、頭にいく。
「大将、はげてるじゃん」
そうお客さんに言われるのがいやで、大将はお辞儀をするのが苦痛になっていった。
だが、客商売に、お辞儀は必要だ。
大金をはたいていろいろ試してみたけれど、すべて失敗だった。
なので、最後の望みを本間に託したのである。
ノウハウを提供している店を紹介した。
しばらくして、大将が本間を訪ねてきた。
「おかげさまで、髪の毛が生えました。人生でこんなに感激したことはありません。ちゃんこ屋をやめて、自分でサロンをしようかな、なんて思っています」
力士はまげを結う。
なかには、髪の毛が薄い力士がいる。
だから、サロンをして、現役の力士たちの役に立つことができるかなと考えているのだとか。
本間さんは語ります。
「髪の毛の悩みで、ひきこもったり、人生を悲観したり、いろいろな方がいらっしゃいます。わたしは、その悩みを解決するのに力を尽くしていきます」
「ただ、わたしひとりの力では限界があります。なので、多くのお店の方々と協力していきたい」
小学生のとき、貧乏暮らしをしました。
そこで、本間さんは、何事にもめげない、へこたれない強さを身につけました。
そして、化学物質過敏症という難病にかかってしまいました。
一度死んだみたいなものですから、さらに何倍も強くなっているのでしょう。
本間さんの人生の旅は、つづきます。
あらたな困難が待ち伏せているのかもしれません。でも、彼女は乗り越えるはずです。
ど根性の持ち主ですもの。(一部敬称略)
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中島隆(なかじま・たかし) 朝日新聞の中小企業担当編集委員。福岡生まれの千葉育ち。自称、中小企業の応援団長。
著書に「魂の中小企業」(朝日新聞出版)、「女性社員にまかせたら、ヒット商品できちゃった」(あさ出版)。朝日新聞朝刊で月1回特集している「われら中小企業」のまとめ役。
runより:凄まじい根性ですね∑(-x-;)
化学物質だらけの世界を改善しながら顧客を得ていくには相当な苦労があったと思いますが軽くスルーしたように感じるほどです。
やはり化学物質過敏症患者は雇用されるには厳し過ぎるので何か自分でやるのがいいのかもしれないですね。