細胞や組織をかく乱する「シグナル毒性」とは-3 | 化学物質過敏症 runのブログ

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内分泌かく乱化学物質問題
 内分泌かく乱化学物質問題が浮上したのは“DESdaughter” がきっかけです。流産予防のジエチルスチルベストロール(DES)を大量摂取した妊婦から産まれた女の子が成長して膣癌を発症し、早期の暴露による影響の結果が後で生じること(earlyexposure late effect)が知られるようになり、内分泌かく乱との関連が示唆されるようになりました。
 内分泌かく乱は、シグナル毒性が標的部位に作用しタンパク発現異常が生じる結果、機能障害などの有害作用が起きると現在は考えられています。その作用は物質だけでは決まらず、暴露を受ける宿主の状態との「ペア」で決まります(標的ごとの臨界期)。

したがって用量作用関係は、標的となったシグナル受容体系の性質に依存しています。

毒性調査対象の受容体が敏感な標的なら「低用量」、鈍感なら「高用量」で反応し、用量作用関係は非単調の関係になる場合もあります。

ヒトでも、子どもは小さな大人ではないので、大人にとっては低用量では何の問題がなくても、子どもには低用量でも影響が出ることがあり得るのです。
 内分泌かく乱化学物質のひとつであるビスフェノールA(BPA)の影響検証に、ネズミを使用した性周期の変化があります。

BPA をネズミに毎日体重1kg あたり0.05mg と0.005mg を与えた場合を比較すると、0.005mg を与えたほうが性周期の乱れが激しく、単純に投与量が増えるほど反応が大きくなるというものではありませんでした。

化学物質過敏症
 菅野先生の研究部ではシックハウス症候群の研究として揮発性物質をマウスに吸引させ、肺、肝臓、海馬への遺伝子発現影響を検討しています。

マイクロアレイを使用し、4万5000の遺伝子の発現情報を調査した結果、厚労省で指針値のあるホルムアルデヒド、キシレン、パラジクロロベンゼンでは、海馬が同じような反応をすることがわかったそうです。

大脳皮質などについては研究中とのことです。マイクロアレイを利用した遺伝子発現解析は近年急速に発展して旧来の毒性試験を強力に補強し、長期的には次世代シークエンサなどの力も借りて、従来のものに取って代わろうとしています。

また講演では実験動物の行動テストが紹介されました。

例えば、ネズミの実験で、指針値と同程度のレベルに暴露させると記憶低下が見られ、大人のネズミでは3日程度で回復しますが、子どものネズミの場合は同じようには回復しませんでした。
 ちなみに厚生労働省は現在、表1に示すように13種類の化学物質の室内空気の濃度指針値を提示しています。


シグナル毒性をネオンスワンにしないために
 菅野先生は最後に、共同研究者である北野宏明先生がウォールストリートジャーナルからの引用として日本毒性学会で発表した「ネオンスワン」を紹介しました。

「ブラックスワン」は「考えられないほどまれにしか起こらないが、起こった際には重大な影響が出る出来事であるが、事前に対応を予測するのは難しいもの」で、それに対してネオンスワンは「誰もが予測できる明白なリスクだけれども単に目を閉じて見えないことにしているリスク」だと。菅野先生は、ネオンスワンに目をつぶらず、問題点を明らかにして研究を進める重要性を示唆していました。
 

菅野先生の講演をお聞きして、いくつかの感想を述べます。
 まず、化学物質過敏症の研究が発展し、患者を苦しめている、周囲の無理解(行政、医者、化学物質製造業界、建築業界、一般市民)が改善されることを祈っています。
 蛇足ですが、化学物質過敏症の患者が長年希望していた病名登録が2009年10月1日に行われました。環境省では平成12年(2000年)から「本態性多種化学物質過敏状態の調査研究」を立ち上げておりましたが、平成17年度(2005年)の報告以降あらたな報告がありません。

某医学者によると、そもそも「本態性」という言葉は原因不明を意味するので化学物質過敏症にあてはめるのは明らかに誤りということです。

最終報告書ではマイクロアレイや遺伝子多型についても触れています。すでに専門家の間では「化学物質過敏症」が「気のせい」ではなく、遺伝子レベルでの検討が必要であることが理解されていたようです。
 次に、内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)による被害はホルモン受容体を介したシグナル毒性の典型であり、神経毒性や免疫毒性と連係してさまざまな影響を与えることが予測されます。したがって毒性の発現は単純ではなく、生体への暴露の時期(タイミング)、量によって異なります。

当然のことながら従来の毒性検査の手法は有効ではないようです。

タンパク発現異常、あるいは遺伝子発現の変化のさらなる検討によって受容体を介した有害作用の内容(エンドポイント)が予測されることが期待されます。
 最後に、私には、原子力発電所だけではなく、環境ホルモンや化学物質過敏症を引き起こす化学物質を「ネオンスワン」だと考えることは単に人間の能力が追いついてないだけのような気がします。

大量生産され、撒き散らされている化学物質がどのような経路で子孫に伝わり、どのようなかく乱をもたらすか、いまだ解明途中のようです。

解明できる日が果たして来るのでしょうか。