「最近の研究で、このような免疫物質は脳の中でもつくられていることがわかってきました。免疫物質が脳内でつくられると、セロトニンなどの神経伝達物質を介して行われる情報交換がうまくいかなくなり、さまざまな慢性疲労の症状が現れるのです」(倉恒さん)
長年の疲労研究の成果により、さまざまな疲労に伴う症状には、脳の機能異常が関係していることが明らかになってきている。機能異常が起こる脳の部位と、全身の痛み、疲労感、抑うつなど、現れる症状との相関もわかってきており、これからは脳の画像で疲労を診る研究が進むとみられる。
セロトニンなどの神経伝達物質による脳内の情報交換がうまくいかなくなると、疲れているのに疲労感を自覚できなくなることもある。いわば「疲労感なき疲労」だ。
「周囲からほめられて一時的に達成感を味わったり、自分は必要とされていると思うと、脳の中で快楽を司るドーパミンや、怒りのホルモンといわれるノルアドレナリンなどの神経伝達物質が増え、疲労感が覆い隠されてしまうのです」(倉恒さん)
実はこの「自覚なき疲労」が危険だと倉恒さんは指摘する。
慢性疲労に陥る前にまずは自分の疲れを意識しよう
覆い隠された疲労は、自覚はなくても体の活動能力は低下している状態。気づかずに活動し続ければ、最悪の場合、過労死などの急激な破綻につながることもあるため注意が必要なのだ。
こうした自覚しにくい疲労の状態を知るためにも、客観的に疲労を評価できるバイオマーカー(生物学的指標)が求められる(詳しくは第3回目の記事で紹介する)。
個人レベルでは、慢性的な疲労に陥る前に、自分の疲れの状態に心を配り、その日の疲れはその日のうちに回復させることを意識したい(詳しくは次回の記事で紹介する)。
また、同じストレスでも、それに対する感受性やストレス処理(コーピング)の仕方によって、疲れの感じ方は大きく違ってくる。
「こだわりが強い固着性気質、完璧主義の人は高い成果を上げることができますが、ストレスを強く感じやすいことも知られています。
より意識してしっかりとマネジメントすることが大切です」(倉恒さん)
具体的にどうすればいいかというと、ストレスがあるときは誰でもその原因を分析し、解決しようとするが、なかなか解決できない場合は、可能であればその状況から“抜け出すこと”が重要だ。
それができない場合は、家族や友人、同僚などに自分の状況を説明して共感してもらう、あるいは、怒る、泣くといった感情表現をすることも大切だという。
1日の睡眠や週末の休息では回復しない疲労が蓄積している場合は要注意だ。
1カ月以上続けば「遷延性疲労」、6か月以上続けば「慢性疲労」と呼ぶ。慢性疲労症候群と呼ばれる病気が慢性疲労と混同されることがあるが、慢性疲労症候群は日常生活そのものが破壊されるような深刻な病態であり、単なる「慢性疲労」とは区別する必要がある。長く疲労が続いている場合は、医療機関へ相談を(慢性疲労症候群については第4回目で詳しく解説する)。
次ページで紹介する疲労度チェックリスト(図2)も参考に、まずは日頃から疲れの状態をセルフチェックする習慣を持とう。