井上医師は「専門外でも、患者さんのすべての診療科の情報を把握し、かかりつけ機能を高めることが大切。必要に応じて専門医療機関と連携しながら、主治医としてやっていく。その哲学が大事だと思っている」と話す。
慢性疾患の患者は月に1回程度の受診が一般的で、月額4510円はむしろ割高。
算定には患者の同意がいる。
井上医師は「総合的に診て、情報を一元化できる。診療情報提供書もしっかり書ける。患者さんにすれば具合が悪いときにかかっても、検査をしても、紹介状をもらっても、新たな費用はかからない。一種の保険のように感じていただいていると思う」とする。
「主治医意見書」
この費用を算定する要件には、介護の視点も盛り込まれた。
患者が介護認定を受けるときの「主治医意見書」の作成は最低条件。
同センターのように介護保険でリハビリを提供するのも、必須ではないが要件の1つだ。
井上医師は、同センターの特徴を「1つの『箱』に、在宅を支える医療と介護のさまざまな機能が詰まっていること」と言う。
外来や訪問診療のほか、クリニックには18床の病床もある。
家で暮らす患者の身体機能が急に落ちれば、医療保険で患者を入所させ、短期集中のリハビリを提供する。
家族が介護に疲れていれば、要介護度の重い高齢者を介護保険で一時的に入所させて、家族に休息を取らせる。
地域包括診療料を導入する前も後も、対応はさほど変わらないという。
■近所の診療所への期待は? 介護にも目配りしたサービス
厚生労働省が、日本医師会の調査を基に作成した資料によると、国民が近所の診療所に期待するのは「夜間や休日を含めた時間外の医療への対応(51.8%)」がトップ。
「あなたや家族の健康について気軽に相談にのる(44.6%)」が続く(複数回答)。
身近な診療所を「いざというとき」も「健康なとき」も頼りにする様子が浮かぶ。
実際、がん検診の受診率は、かかりつけの医師が「いる人」と「いない人」では、「いる人」が高く、かかりつけ医が予防にも配慮していることが分かる。
だが、医師1人の診療所に時間外対応をどこまで求めるかは難しい。
「地域包括診療料」とともに昨年度、医師1人の診療所には「地域包括診療加算」が新設された。
算定する医療機関では、対象患者は服薬管理や健康管理、在宅医療を受けられる。
24時間対応は限定的な場合もある。
1回の診療に60円(3割負担の場合)が上乗せされる。
どちらの算定でも、かかりつけ医には、介護への目配りがいる。
介護保険の主治医意見書の作成が必須の要件になったのは、医療職の介護への理解が進んでいないからだ。
主治医意見書は介護認定をするための必須の書類。
だが、介護認定をする自治体が最も苦労するのは「主治医意見書の回収にあたっての督促」だとの調査結果もある。
厚労省は「介護も医療も両方分かった上で、患者さんや家族にどういったサービスを提供するのが一番適切かということをちゃんと判断していただくのも、主治医の機能」とする。
医療機関での一時預かりなどが増えると、家での暮らしも続けやすい。
日本に多い中小病院や有床診療所が、時代にあったかかりつけ機能を果たしていくか注目される。