出展:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
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ニュースレター第88号
・●総会記念講演1
発達障害のある子ども達の健やかな成長を育む社会の役割
(独)国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所児童・思春期精神保健研究部
神尾 陽子
発達障害同士、発達障害と精神疾患は密接に関連する
自閉症スペクトラム症は、発症が最も早く、二歳以降に診断が可能となる。うつ病や不安障害などの精神疾患は、成人してから発症するが、はっきりと診断されるまでに時間がかかる。
このように二つの症状は、一見すると別個のものにも見えるが、精神疾患は発達障害との合併率が高いという特徴がある。しかし、合併した障害は見落とされがちであった。
自閉症は、乳児健診や母子検診などの機会を利用して、早期診断や対応が可能である。
そこで精神疾患と自閉症を含む発達障害との合併率の高さを踏まえると、自閉症の診断を受けた場合には、成長に合わせて、他の障害を合併している可能性も踏まえて、対応していく必要がある。
2013年、APAが改定され、知的障害、コミュニケーション障害、自閉スペクトラム症、ADHD、限局的学習障害、運動障害などは全て「神経発達障害群」に改名された。
これらは、高頻度であらわれる合併症状に類似性があることや、ゲノムや環境、気質に認められる発症リスクに関して共通点が多い。
発症リスクは、「なりやすさ」に関与する多様な遺伝要因と環境要因が超密接に影響しあって高まる。
症状と適応
治療にあたっては、「症状」と「適応」を区別した上で対応する必要がある。症状は、医療機関が対応するものであるが、症状が改善しない場合であっても、本人の能力に見合った適応によって改善する例も少数であるが存在する。
しかしながら、適応が悪いケースの方が多いのが現状である。
発達障害、精神疾患の新しい理解を
従来、これらの疾患は細かくカテゴライズされ、解説書では、「ADHDは……。ASDは……。」と各症候群ごとに説明がなされていた。しかし、各症状は段階的に発症するものであり、その分布は緩やかな山状になっている。そのため、症状レベルの連続性を意識しながら、症状を分類していく必要がある。
自閉症は他の発達障害や精神疾患との合併率が高いという特徴があるにもかかわらず、従来の自閉症についての研究は、自閉症のみ発症している人を対象に行われてきた。そのため、自閉症のみを発症している人に対応するための情報はたまったものの、実際の診断時には、このような人は少ないのが実情である。
自閉症の基本的症状
自閉症と診断されるには、次の1~3の全ての症状が見られなければならない。
1 言語・非言語コミュニケーションがとりにくい
特に表情やジェスチャー、声の抑揚などを介した非言語的なコミュニケーションを取ることができず、会話が一方的なこともある。
2 相互的な対人関係が苦手
年齢や能力にふさわしい持続的な対人関係を形成することが、同性相手であっても異性相手であっても苦手である。そもそも友人が欲しいとも思わないこともある。
3 興味や活動がステレオタイプで柔軟性に乏しく、こだわりが強い
典型的に自閉症と診断される人に加えて、アスペルガー症候群と診断された人や、特定不能の広範性発達障害とされた人の中にも、上記に挙げた自閉的な症状のある人もいる。
今までは、症状ごとに独立した診断名を設け、結果として病名が細かく分類されてきたが、最近では、複数の症状を統一した診断名を設け、症状の程度に重点を置いた対応をするという方向へ変化しつつある。