随伴症状への対応
自閉症に伴って現れる症状としては、睡眠障害、味覚、触覚、聴覚、嗅覚などの間隔刺激の反応に異常が現れ、哺食や過剰に泣くというものがある。
不器用性や姿勢のバランスが悪いといった運動発達にも異常が出ることがある。
そして、これらの症状は、自閉症患者と診断される人が有する社会性の問題が現れるより早期(乳児期前半)に現れることが多い。
つまり、自閉症は脳の高次機能の問題、つまり社会性の問題としてのみ現れるのではなく、他にも運動機能や感覚機能にも問題が現れることがあるが、その症状は今日までなかなか注目されてこなかった。
自閉症と診断された人の大半は、乳幼児期の言語や知能の発達に遅れが出ていなかった。
そのため、親が症状に気付き、相談、受診するまでに時間がかかっていた。そのような子供は、小学校で、自閉症と診断されることなく、しかし「何かが違う」と周りから感じられつつも、周囲の人間から適切な対応を受けることなく、中学校に進学し、やがて不登校になる、というケースが多い。
このようなケースを減らすためにも、保育園地域の人々による早期対応が望まれる。
医療の世界では、診断してから治療をするというのが一般的であるが、自閉症の診断がなされるまでには上記のとおり長い年月がかかる。
そこで厚生労働省では、遅い診断を待って対応していては患者個々人の抱えるリスクがより深刻になるため、最終的な診断がなされる前の段階であっても、上記のような随伴症状が現れた乳幼児に対しては、診断前支援を実施している。
どのような支援方法が良いのかはまだわかっていないが、早期からの支援により、発達の促進や二次障害の予防に役にたち、長期的には社会参加を改善することができる。
また、本人及び周囲の理解に役に立ち、家族の心理的負担が軽減し精神的健康も向上すると考えられる。
自閉症的特性を持つ子供と、持たない子供の間にはっきりした境界はなく、診断は恣意的になされる。
しかし診断の有無に関係なく、自閉症的特性の程度はなめらかに連続する。そこで、症状を量的に図る必要がある。
1歳6カ月で分かること
ほとんどの自閉症スペクトラムでは、生後18カ月で自閉症の早期兆候が認められるが、反対に言葉に問題がない乳幼児は、この段階で見逃されてきた。
またこの時期に自閉症が疑われた乳幼児も、3歳から通う保育園には情報が伝わらず、連携した対応が難しいという実情がある。
そこで、言葉に問題がない子どもに対しては、言語認知面や運動面も合わせた全般的発達スクリーニングの必要がある。
この時期の社会性の芽生えを確認する方法としては、「何かに興味を持った時、指をさしてそれを伝えようとするか」(興味の指さし)や、「お母さんが見ているモノを、お子さんも一緒に見ているか」(視線の追従)という項目を母子健康手帳に加えることが考えられる。
子どもが大人との間で関心や気持ちを重ね合わせ、シェアする力は、1歳までに著しく発達するものである。
この段階で乳幼児が自ら共感を求めてこない場合は、後の言語の発達の遅れや社会性の発達の遅れを予想できる。そのため、継続的な支援に乗せることが大切である。
平成24年春の母子健康手帳の改正により、1歳保護者記載欄の項目に、「部屋の離れたところにあるおもちゃを指さすと、その方向をみますか(指さしの追従)」が追加された。
これを機に、1歳頃の共感・共有能力の発現時期の重要性が広く認識され、日常生活の中で活かされることに期待したい。
小学校にて
自閉症的症状の子どもはスペクトラム的に分布している。
そのうち、情緒や行動の面に関して正常な範囲に分布している子どもと、自閉症的症状が顕著にみられる子どもとの間に分布する子どもへの対応が必要である。
これらの子どもは通常学級に在籍していることが多いが、情緒や行動の問題併発リスクが、自閉症的な特性の低い通常学級の子どもと比べて高いことに留意する必要がある。
その上で、発達障害ではないとしてもその可能性があるとして、学校医等で対応していくべきである。
発達障害のある人々のニーズは適切に把握されておらず、対応も不十分であるのが現状である。
発達の道筋は個人の特性と環境の影響によってさまざまであり、良くも悪くもなるものである。
しかし早期からの発見・対応は、成人してからの社会参加に不可欠である。そして支援は画一的なものではなく、個別のニーズを把握した上で、継続的に行っていかなければならない。
そのためには、地域で支援を受けられるための体制の再構築と専門性のある多職種チームによるサービスの向上に努めなければならない。
(報告:理事・荒谷 淑惠)