週刊実話2015年2月26日号
成分の重複が招く 知っておくべき薬の過剰摂取の危険
昨年末、米国疾病対策センター(CDC)が「2014年の重要な健康対策トップ10」を発表した。
気になるのが、「死亡の最大要因」として心血管疾患、喫煙と並び医師の処方が必要な鎮痛薬(痛み止め)の過剰摂取が取り上げられたことだ。
関東中央病院麻酔科担当医は「米国では医師の処方が必要な鎮痛剤の過剰摂取による死亡が、2010年までの10年間で5倍増の1万5300人に達して大問題になっている」と説明し、こう続ける。
「最近のデータでも、米国では毎日44人亡くなっている。この数字は、麻薬で亡くなる人数より多いんです。医療費が高い米国では、ちょっとした体調不良や痛みでは病院に行かず、市販の鎮痛剤で対処する人が多いといわれます。なのに、病院で処方された鎮痛剤の過剰摂取トラブルが多いのはなぜか。病院で処方されるのは麻薬系鎮痛剤が中心で、痛みを鎮めるためというより気分を良くするために使う人が増えているからともいわれています。また、病院に行かず他人の処方薬を貰って飲む例も多く、トラブルに拍車をかけている。その対策として麻薬系鎮痛剤の処方を90日以内に抑えるようにルールを改正するなどしているようですが、結果は出ていません」
では、日本はどうだろうか。そもそも鎮痛剤というのは麻薬系と非ステロイド系に分かれ、日本では後者の中でも安全性が高いとされる「アセトアミノフェン」が主流であるため、米国ほど被害は出てはいない。
しかし「健康被害は出ており注意は必要です」(麻薬科医)との話もある。
会社員の男性(56)は、腰痛のため貼り薬を使用していたが、あまり効能がないため、近くの整形外科に行った。
そこでの診断は椎間板ヘルニアだったが、手術をせず、しばらく治療しながら様子を見ることになった。
その際、処方された痛みを抑える非ステロイド系の鎮痛薬を飲み続けることになったが、2~3日後、食欲が落ち、食べる量も少なく、食べた後も胃の周辺にモヤモヤ感が残るなどの異変が生じた。
そこで別の病院を受診したところ「腎臓の血流が低下している。
肝機能も悪い」と診断されたという。
「鎮痛薬を飲む前は健診でも指摘されたことがなかった病気だし、薬が合わないのかなと疑問に思い医師に相談しました。
そうしたら、新たに腎機能を改善する処方薬を加えてもらい飲むようにしたんです」と言う男性。
その後、少しずつながら症状が改善されたが、気付けば処方薬は4種類に増えていたという。
「鎮痛薬に関して言えば、非ステロイド系とはいえ腎臓の血流を悪くし、腎機能の働きを低下させることがあります。また、心筋梗塞や心不全を増やすデータもあり、心臓や腎臓の悪い人、血圧が高い人は気を付けなければいけません。また、安全とされるアセトアミノフェンも、お酒の後で飲むと代謝物が毒性を持ち、肝臓の障害を起こすこともあるので注意が必要です」こう語る専門家もいて、今後は日本でも鎮痛薬で体調を落とす患者が増える可能性も指摘する。
『その症状、もしかして薬のせい?』(セプン&アイ出版)の著者で地域医療に従事し、コラムニストでも知られる長尾和弘氏も、同書の中で「日々の診察の中で、あまりにも多くの種類の薬を飲まされている患者の実態に危機感を覚える」と警鐘を鳴らし、薬の「多剤投与」が起きる理由を上げている。
「ある症状を抑え込むために出した薬に副作用があれば、それを抑える薬を出す。しかし、その薬にも副作用があれば、さらに別の薬を出さなければならないのです。
これを繰り返して行けば、いくらでも薬の種類を出せる」と述べている。
こんな例がある。
Sさん(男性・71)は、内科で高血圧治療薬、血液をサラサラにする薬、痛風薬、利尿薬。さらには消化器内科で複数の胃腸薬、便秘薬。整形外科では足腰のしびれや痛みのために鎮痛薬、ビタミン剤、漢方薬が処方され、合せて14種類23錠の薬を服用していた。
そんなSさんが訪れた久富総合医療クリニックの久富茂樹院長は、Sさんの話を聞き、薬の種類を一つずつチェックしたという。
まず、3種類服用していた高血圧治療薬は、Sさんの血圧の状態や年齢から考えると、1~2種類に滅らしてもいいのではないかと考えた。
痛風は本来、発作を起こしてから服用するものだが、Sさんは尿酸値が高いものの発作はまだ起こしていない。
胃薬にしても、10年前に胃潰瘍の手術を受けて以来、定期的に検査に通う消化器内科で継続して処方されていたが、胃の不調は日ごろとくに感じてないという。
しかも内科、整形外科でも胃腸薬が処方されていた。
「Sさんの話と薬を照らし合わせ、"絶対に飲まなくてはならない薬"と"必要な時に飲んだ方がいい薬"とに分けたのです。胃腸薬はまさにそうでしたが、同じような成分が重なっている薬が結構ありました。それらをSさんに説明し、これらを減らして様子を見ましょうと話したのです」(久富院長)
薬の量にストレスを感じ、飲み忘れも多かったというSさんは、同院長の指導のもと、現在服用している薬は7種類16錠と半減させたが、症状が悪くなることもないという。