・3.2 カナダの活動
1990年に環境過敏症に関するワークショップが開催された。
MCSと精神医学的疾病への関連性に関するワークショップは1992年に開催された。
カナダの専門家たちはMCSに関連する問題について、アメリカで行われたものに比べて、より広く議論を行った。
彼等は、患者の身体的、社会的、及び経済的問題、及び、保健行政による治療システム、社会行政、職場へのMCSの影響について議論した。
下記勧告が採択された。
•MCS患者は、診断の準備としてよりも日々の生活機能に照らして評価されなくてはならない。
•MCS診断の基準は、a) 可能な possible、b) ありそうな probable、C) 大いにありそうな highly probable 、として確立されなくてはならない。
数年間、カナダの環境及び健康当局は、農薬の個人使用及び公共の場所での香気の使用を抑制するためのいくつかの防止措置を行った。
カナダ保健省は、被害者に対する社会的補償を可能とするために、他の2つの環境病とともにMCSを認知するよう試みた(第8章 参照)。
コメント
MCSに関連して、アメリカでは焦点がもっと狭く診断の客観的なシステムに注がれているのに対して、カナダのシステムは総合的に社会的及び予防的側面を強調しているように見える。
3.3 ヨーロッパの活動
3.3.1 EU 環境総局報告書 1996
国際専門家グループは、欧州委員会の環境総局(DG Environment)から化学物質過敏症に関する状況を、特にデンマーク、ドイツ、スウェーデン、ノルウェー、ベルギー、オランダ、イギリス、ギリシャを含む選択された諸国について調査するよう要請された(European report, 1994)。
報告書”選択されたヨーロッパ諸国における化学物質過敏症:予備調査”がデンマーク、ドイツ、ギリシャ、及びアメリカからの11人の科学者によって作成された。
主著者はアシュフォード(N. Ashford)であり、ミラー( Miller)とともに”化学物質曝露”を書いた人である。
9か国からの代表者に示された調査のコンセプトと質問票の形式は、当時のアメリカで考えられていた方法に基づいている。当時、ほとんどのヨーロッパ人にとって、この方法は不慣れであった。報告書は承認されず、公式には環境総局から発行されなかった。
報告書は、各国の1人の中心人物が自国から収集した情報に基づいて作成された。
各国からの情報は同一の質問に対する回答からなっており、これらは、曝露、患者からの情報、関連調査研究、及び将来の計画の下にグループ分けすることができる。
その結果は、ヨーロッパ諸国の無計画で多様な状況を表しており、お互いを比較することはできないほどのものである。
これは資料を収集した方法に問題があったためである。
質問はアメリカでの経験と知見、すなわち、可能性ある原因仮説と目標グループに基づいていた。
質問は誤解されたかも知れず、又は不適切な人々に向けられたかもしれない。
報告書は、それぞれの国が曝露と病気のはっきりしたタイプを持った”独自”のMCS症例を持っているが、MCS様状態は全てのヨーロッパ諸国で起きていることを示している。
デンマークは多分MCSと同様な病気の診断と化学物質曝露を持っていると言われている。
この報告書からのいくつかの情報は第4章に示されている。
3.3.2 イギリス安全衛生長官(HSE)への報告書
スコットランドの産業医学研究所は多種化学物質の検証を要請された。
主著者グレーブリング(Graveling)と5人の研究所員が次の質問に答える広範な報告書を作成した。
1.非常に低濃度の殺虫剤を含む化学物質への曝露が人間に症状を引き起こすことがあるか?
2.これらの症状は生理学的又は心理学的プロセスのためであるとする文書はあるか?
報告書は、病気の機序に対する異なった仮説に対し、非常に詳細で徹底的な検証を行っている(Graveling, 1999)。
2つの質問に対して正確な答えは出していないが、著者等は疫学的調査に基づき、MCSは実際のものであると結論付けている。
3.3.3 イギリス・アレルギー環境栄養医学協会(BSAENM)の報告書
イギリス・アレルギー環境栄養医学協会(BSAENM)は、いくつかの医学分野のイギリスの医師たちからなる組織である。彼等は臨床環境病モデルを強く強調しつつ、MCSに関する広範な報告書を作成した。
症状は食物アレルギーに関連し、明白な免疫学的特徴を持たないアレルギー性反応が原因機序の中にある。いくつかの医学上の歴史が議論されているが、その中であるものはカレンの基準を満たさない(Eaton, 2000)。
3.4 国連/WHOの下での活動
国際化学物質安全プログラム(IPCS) ベルリン・ワークショップ 1996 年
欧州委員会からの報告書の中の勧告のひとつは、ヨーロッパの状況を討議しMCSに関する情報と研究についての共同取組みを計画することを目的として、MCSに関する全ヨーロッパの専門家の会議を開催することであった。
上述の通り、その報告書は刊行されず、EUは勧告をフォローしなかった。
一方、IPCS(国際化学物質安全プログラム)はWHO、ILO、UNEP、及びドイツ政府とともに1996年にベルリンで国際ワークショップを開催した。
アメリカ、カナダ及びいくつかのヨーロッパ諸国から専門家が参加するよう要請された。欧州環境総局の代表もまた参加し、化学産業界からの何人かの代表も参加した(IPCS- report of multiple chemical sensitivities, 1996)。
ワークショップは上述したアメリカの会議に比較される。同じ専門家がアメリカから参加した。ワークショップの最終文書は発行されなかったが、それは参加者が結論に同意することができなかったからである。
80%が主要な結論を支持することができなかった。
WHOはこの会議以来、何もしていない(pers. com. Dr. Younes, IPCS/WHO Geneva, 2001)。
3.5 結論
ここでは、保健当局がアメリカ政府からの支援を得て実施したMCSに関する科学的活動を述べる。
MCS研究プロジェクトのための提案は高品質であり適切であると考えられ、ヨーロッパ/デンマークに研究のための示唆を与えた。
多くの研究プロジェクトからの成果は比較的少ない。
MCSの原因機序は全体的に明確にされていない。
アメリカ政府の下でのワーキング・グループの報告書は公式には承認されておらず、刊行されていない。
MCSは公式には疾病として認知されておらず、診断、診察、及びリスクのあるグループの特定のための精密な手法は存在しない。
臨床環境医師と確立している医学者はお互いにアプローチしようとしない。