化学物質過敏症勝訴裁判主文10 | 化学物質過敏症 runのブログ

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2 争点(1)(グルタルアルデヒドと原告の症状との因果関係)について
(1) 前記認定事実を基に原告が化学物質過敏症に罹患したかを検討する。
ア 原告の症状経過からすると,原告はグルタルアルデヒドに暴露した結果,
化学物質過敏症に罹患したと認めることができる。

すなわち,原告は,平成10年5月被告病院検査科での業務に従事するようになり,同年6月2日に鼻粘膜と咽頭粘膜の刺激を訴えて被告病院のE医師の診察を受け,ステリハイド吸入による刺激が考えられるので一応耳鼻科を受診することとの診断がされたこと,それ以降も1月に約1回の頻度で咽頭痛などを訴え,被告病院において急性上気道炎の治療を受けていたこと,平成11年1月ころから消毒剤がサイデックスに変わったが,原告には刺激臭が強く感じられたこと,平成12年5月16日に検査科において内視鏡検査の補助をしたところ,翌17日から咽頭痛,顔面浮腫,口内炎といった症状が出現し,E医師によりサイデックスアレルギーが疑われる旨診断されたこと,同年6月12日にはD医師に対し,サイデックスを使用した後に歯肉の腫脹,口内炎が出現し,耳の掻痒感や呼吸困難という症状を訴えたところ,D医師によりサイデックスアレルギーが疑われるとして被告病院に対し配置転換が助言され,同月30日からサイデックスを使用しない外科に配属になったこと,その後も特に夜勤の時に,サイデックスの臭気により口内炎が出現し,咽頭炎や呼吸困難となったことなどから,平成13年6月末日に被告病院を退職したこと,その後,個人医院や介護施設に就職するも,レントゲン現像液やクレゾールの臭気によって口内炎や喉の違和感を覚えたことからいずれも短期間で退職したこと,同年10月ころ笹川皮膚科において化学物質過敏症の疑いがあるとの診断がされ,平成16年2月の北里研究所病院での検査により,眼球運動検査と視覚コントラスト感度検査で異常が認められ,自律神経機能検査では自律神経機能の不安定性が観察され,同病院の医師より中枢神経・自律神経機能障害が認められる旨の診断がされたこと,このような診断結果を受けて,B医師は,同年6月2日,化学物質過敏症に罹患し,同日症状が固定したと診断したことなど,原告の症状の経過からすると,原告は被告病院の検査科に配属となり,グルタルアルデヒドに暴露した結果,化学物質過敏症に罹患したものと認めることができる。

イまた,原告が被告病院に勤務し,検査科に配属となった平成10年5月ころから平成12年6月30日までの間における透視室の状況からしても,原告は化学物質過敏症に罹患したことが裏付けられる。

すなわち,透視室には2カ所の扉があるも放射線管理区域であり原則として開放できないところ,換気設備としては洗面所の天井付近に吸気排気口しかなく,空気より比重が重いグルタルアルデヒドが排気されるとは考えにくい上,隣りの技師室に設置されている換気扇は透視室とを繋ぐ戸から離れた位置にあり,グルタルアルデヒド蒸気排出のために設置された特殊な換気扇ではなく,透視室内の換気は不十分であったといえること,「内視鏡の洗浄・消毒に関するガイドライン(第2版)」によれば,極端に換気の悪い環境下で高濃度のグルタルアルデヒドに暴露され続けると,微量の化学物質に対しても口内炎を発症し,化学物質過敏症に至る場合もあることが指摘されていること,平成14年3月5日に実施された被告病院透視室内におけるグルタラール濃度は0.06ないし0.20ppmであり,米国の職業安全衛生管理局(OSAH)が設定している空気中の濃度0.2ppmを超えるものではないが,米国工業保健衛生士協会(ACGIH)が推奨している0.05ppmを上回るものであったこと,原告は透視室内に午後1時から午後5時まで勤務したあと掃除等を実施しており長時間換気が不十分な透視室内にいたことなどからすると,原告は被告病院の検査科に従事することを契機として化学物質過敏症に罹患したものと認めることができる。

(2) この点,被告は,化学物質過敏症は未だ曖昧であり,発生機序・原因を
含め病態の十分な解明がされておらず,その病態の存在自体が議論の対象となる段階にある疾患であるし,仮に原告が化学物質過敏症に罹患しているとしても,その原因が被告病院における空気中のグルタルアルデヒドの暴露であると判断すべき根拠は存在しない旨主張する。
確かに,化学物質過敏症の病態や発生機序については未解明な部分が多く,中毒やアレルギーといった既存の疾病による患者が含まれていることが指摘されているところではあるが,微量の化学物質に反応し,非アレルギー性の過敏状態の発現により精神・身体症状を示す病態が存在することが否定されているわけではない。

また,前記認定のとおり,化学物質過敏症発生の原因物質としてグルタルアルデヒドが指摘されているところ,原告はグルタルアルデヒドを組成物とするステリハイドやサイデックスという消毒剤を使用する換気が不十分な透視室で作業に従事していたことや検査科に配属になる前と後では原告の症状が明らかに異なることに照らすと,原告の症状は透視室内で発生したグルタルアルデヒドの蒸気に反応したことにより化学物質過敏症に罹患したものと認めることができる。