化学物質過敏症勝訴裁判主文3 | 化学物質過敏症 runのブログ

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(被告の主張)
ア予見可能性について
過失とは,予見可能性及び結果回避可能性を前提に,予見義務及び結果
回避義務を論じるものである以上,注意義務の具体的内容を論じるために
は行為の当時,予見可能であった危険の内容を前提に注意義務の具体的内
容を論じるべきである。
原告が被告病院に勤務していた当時の我が国におけるグルタルアルデヒドの危険性に関する一般的認識としては,「蒸気への暴露による副作用として明確に指摘できるものは存在しない。

ただし,蒸気への暴露によって眼,鼻,喉の刺激症状,頭痛といった,いずれも一時的かつ比較的軽微な副作用が生じている可能性が指摘できる。なお,皮膚への直接の付着による副作用としては,発疹,発赤などの過敏症状がある」といった程度のものであった。

なわち,グルタルアルデヒド暴露による危険性に関しては,一過性で軽微な刺激症状等の可能性が一般的に認識されていたにすぎず,化学物質過敏症に罹患することを予見することは到底不可能であった。

イ結果回避義務違反について
(ア) 被告は,原告に検査器具の洗浄業務を行わせるに際し,洗浄薬品に含まれるグルタルアルデヒドに過剰に暴露して健康被害が生じることを防止するために適切な措置を講じていた。

すなわち,透視室には,入口付近の天井に通風口があり,換気扇によって室内の空気を吸気し,ダクトを通じて,これを屋上に排気する換気システムが存在しており,良好な換気状態が維持されていた。

また,透視室内において検査機器の洗浄時の室内におけるグルタルアルデヒドの濃度の測定検査を行ったところ,グルタルアルデヒド濃度は0.04ppmから0.20ppmの間で推移しており,米国における基準である0.20ppmを示したのは容器周辺に消毒液がこぼれて散っている状態となった場合であるから,換気状態は良好であった。

また,被告病院においては,ゴーグルを準備して透視室内に備え付けており,グルタラール製剤の添付文書を看護師詰所に具備していたところであるし,平成11年1月のサイデックスの導入に際し,被告は業者による看護師全員に対する添付文書の内容についての説明会を実施した。

さらに,グルタラール製剤を取り扱う看護師にマスクやゴーグルを着用しない者が多く,事実上看護師の自主性に委ねられる結果となっていたが,原告自身はマスクを着用していた。

本件当時のグルタラール製剤への暴露による危険性についての認識が前記アの程度であることに照らせば,マスクやゴーグルの着用については看護師の自主性に委ねるとの対応は極めて常識的なものであった。

(イ) 原告は,平成10年6月に被告病院で診察を受けているが,ステリハイドの吸引によって鼻粘膜がヒリヒリするなどの症状を訴えているものの,訴えの内容及び診察等の所見に照らし,一時的な刺激反応と診断するのが妥当であり,診療を担当した医師が診療行為を越えて調査等をすべき義務が生じる余地はない。

そして,平成12年6月ころ,C総看護師は,原告から透視室内での検査業務を担当すると体調が悪くなるとの原告の訴えを聞き,被告病院の産業医であるD医師の診察を受診するよう指示し,D医師は,同月12日に原告を診察し,グルタルアルデヒドに暴露している疑いがあったことから被告病院に配置転換を指示し,同月末日までにはグルタルアルデヒドを使用していない外科に配置転換となった。
(ウ) 以上のとおり,被告病院の対応は適切であり,何ら義務違反はない。
(3) 争点(3)(損害額)について
(原告の主張)
ア医療費等10万9282円
原告は,北里研究所病院の検査結果等をふまえて関西医大附属病院にお
いて化学物質過敏症であるとの診断を受け,また,一般の病院等で個々の
症状に応じた治療等を受け,その診察や治療に要した費用(文書料を含む。)は合計で10万9282円となる。
(ア) 大阪中央病院3万6490円
(イ) 笹川皮膚科2060円
(ウ) 関西医大附属病院2万6050円
(エ) 石村クリニック2万4680円
(オ) 常松診療所2220円
(カ) 北里研究所病院1万7782円
イ交通費等5万6619円
原告は化学物質過敏症等の診察・治療のために交通費・宿泊費を負担し
たところ,それらに要した費用は,次のとおり,合計で5万6619円となる。
(ア) 大阪中央病院3200円
(イ) 笹川皮膚科680円
(ウ) 関西医大附属病院1万4720円
(エ) 北里研究所病院2万6600円
(オ) 宿泊費1万1419円

ウ後遺障害逸失利益1293万8960円
原告は,化学物質過敏症に罹患したことにより,医療現場での勤務が到
底できない状況にあるから,かかる後遺障害は,自動車損害賠償責任保険
における後遺障害等級に照らせば9級10号(神経系統の機能又は精神に
障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの。

労働能力喪失率35%)に相当する。

原告の基礎年収は316万2400円であり,症状固定時49歳であったから,労働能力喪失期間18年(対応するライプニッツ係数は11.690)で計算すると,1293万8960円(円未満四捨五入)となる。

エ特別対策費等52万円
原告は,化学物質過敏症の症状を緩和するため,またはこれに罹患しな
いようにするため,やむなく健康食品,マスク,空気清浄機等を購入する
など化学物質過敏症対策のための特別な支出を余儀なくされているとこ
ろ,それらに要した費用は,次のとおり,52万円となる。
(ア) 健康食品・ドリンク代30万円
(イ) マスク代3万円
(ウ) 空気清浄機付きエアコン購入(差額分) 16万円
(エ) 温熱療法にかかる費用3万円

オ通院慰謝料300万円
原告の症状が固定した平成16年6月2日までの通院期間を考慮すれ
ば,化学物質過敏症に罹患した原告の精神的苦痛を金銭で慰謝するには,
少なくとも300万円を下ることはない。

カ後遺障害慰謝料600万円

化学物質過敏症に罹患した原告が後遺障害を被ったことの精神的苦痛を
金銭で慰謝するには,少なくとも600万円を下ることはない。

キ弁護士費用226万2486円
ク合計2488万7347円よって,原告は,被告に対し,損害賠償請求金額2488万7347円及び訴状送達の翌日からの遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)争う。

仮に,原告に損害が発生したとしても,被告が負う損害の範囲は,本件当時に一般的に予見しえた軽微な損害の範囲にとどまるから,労災で認定された損害の範囲を超えず,損害は既に填補されている。


runより:またもやとても長い記事になるので明日以降掲載します。