・出典:未来の子どもたちのために
http://home-yasupapa.pya.jp/index.html
・有害化学物質の現状
有害化学物質の現状を藤森敬三氏に聞く(1)
古代より人類は、顔料・染料などに見られるように、化学物質を自然界より抽出・合成し、利用してきた。
化学物質は人類にとって有用であり、使い方次第では生活を豊かにしてくれるものである。
人類が自らの手で化学物質を作り始めたのは、今から約100年前のこと。
天然化学物質よりも機能性・生産性が高いもの、新たな機能を持つものを求めて、次々に新たな人工化学物質が開発された。現在、世界の文献に現れた化学物質の数は約1800万種にものぼり、その数は日々増え続けている。
そのうち約10万の物質が工業的に生産・販売されている。
しかし化学物質には人間の健康や生態系・地球環境にとって有害なものも少なくない。
現時点では有害であるのか無害なのかがはっきりしないものも多い。
たとえ生物にとって必要不可欠な天然物質であっても摂取する分量次第では有害なものとなり得る。
例えば、塩は人体にとって必要不可欠であるが、塩化ナトリウムを取り過ぎれば健康を害する。
人工化学物質の場合は天然物質よりさらに慎重に危険性・有害性を把握した上で適切に対処していくことが必要である。
そこで、日本電気環境エンジニアリング株式会社顧問であり、有害化学物質処理の分野に携わってこられた藤森敬三さんにシリーズでお話を伺っていこうと思う。
藤森さんは1959年に日本電気株式会社に入社し、半導体製造機設計に携わってこられた。
まさに、日本の半導体産業・情報産業の黎明を支えたエンジニアのひとりである。
半導体製造には多種多様な化学物質が必要とされる。そのため製造機設計には機械分野のみならず化学分野の高度な知識と経験が要求される。そのような仕事の中で、藤森さんは数々の化学物質を“実際に”扱ってこられた。
その後、1987年から日本電気株式会社の環境管理部長としてNECグループの環境管理を統括された経歴を持つ。
1998年9月、藤森さんは「欧州環境ホルモン実態調査ツアー」を企画され、団長として欧州各国を訪れた。「欧米諸国の行政は日本と違い、相当以前から内分泌撹乱現象に気づいて研究を重ねている。数多くのデータや論文が発表されている。その第一次集大成が“奪われし未来”“メス化する自然”などを出版させた。日本ではまだまだ十分な対応がとれているとは言えない。一刻も早く欧米諸国の活動を調査し、学ばなければならない。そのために、欧州諸国における社会風土、問題意識の醸成、思考過程を実際に現地へ行って五感を使って学びとる必要があると考えたため。」というのがツアーの目的だ。
「従来、化学物質の安全性は、
(1)急性毒性(比較的短期間で毒性があらわれる)
(2)発ガン性
(3)催奇性(奇形を誘発する性質)
の観点でチェックして、排出濃度規制をしてきた。
しかし今後は、動物の体内であたかもホルモンのように作用する“環境ホルモン(内分泌撹乱化学物質)”についても重点的に対策をとる必要がある。
もちろん全ての毒性物質についての完全な対応をしていかなくてはならないのだが、環境ホルモンは他の毒性問題と比べて極めて微量でも作用をおよぼしてしまうという特徴を持つ。
環境ホルモンはppbやppt(濃度の単位。コラム参照)といった、従来の毒性のさらに1000分の1あるいは100万分の1といったレベルの濃度で影響が出てくるといわれている。
また、環境ホルモンは人間や動物の生殖機能に顕著な障害をおよぼすということも重要で、この問題は正に種の滅亡に直結している。
12日間のツアーでの主な訪問先は、
デンマーク コペンハーゲン大学
デンマーク EPA(環境庁)
スウェーデン 化学物質管理機関
スウェーデン SAKAB(有害物処理工場)
ノルウェー NIVA(水質研究所)
イギリス ZENECA(環境研究所)
イギリス DETR(環境庁)
イギリス MAFF(農業・漁業・食糧庁)
と非常に充実した内容だった。
「この視察で、我が国も総力を上げて人の健康を守るために何をすべきか、化学物質の管理をどうするべきかという問題に対して、すべての経済活動、社会活動を見直していかなければならないと強く思った」ツアーの模様は来月号で詳しく紹介する予定である。
問題が起こってからでないと対応しないというのがあたりまえの日本。
しかし、私たちの知らないところで環境先進国は確実に有害化学物質への対策をとっている。
その違いはやはり人間一人ひとりの意識の高さによるものであろう。
有害化学物質問題に限らず、一般に環境問題は“危ないらしいのだけれど、よくわからないし、どうしようもない”では何も解決しないし、状況は悪化する一方である。
少しでも状況を改善するには、正しい知識を備え、有効な対策をとっていく必要がある。
「単位について」
化学の分野で用いられる単位の中にはふだん見かけないものも多く、それだけで戸惑ってしまうこともあるかもしれない。
特に微小な質量と微小な濃度の単位は新聞・雑誌などでも頻出しているので、ここにまとめてみた。これらの単位に慣れていない方は参考にしていただききたい。
化学分野では質量はmg(ミリグラム)よりもさらに小さな単位も扱う必要がある。また、濃度の単位では極めて薄い濃度も扱う。
質量の単位をまとめると、
1kg(キログラム)=1000 g
1mg(ミリグラム)=1/1,000 g
1μg(マイクログラム)=1/1,000,000 g(100万分の1グラム)
1ng(ナノグラム)=1/1,000,000,000 g(10億分の1グラム)
1pg(ピコグラム)=1/1,000,000,000,000 g(1兆分の1グラム)
となる。
濃度を表す単位もまとめてみよう。
たとえば1キログラムの水の中に1ミリグラムの化学物質が含まれる場合、その濃度は1/1,000,000(100万分の1)である。
これを1ppm(parts per million)と表す。
ppb(parts per billion)、ppt(parts per trillion)も以下のような微小濃度を表す。
1ppm=1/1,000,000 (100万分の1)
1ppb=1/1,000,000,000 (10億分の1)
1ppt=1/1,000,000,000,000 (1兆分の1)