過去30年間、多種化学物質過敏症(MCS)と電磁波過敏症(EHS)の患者数は増大しており、これらは二つの異なる健康状態ですが、よく似ています。
影響を受けている人々は引き金となるそれぞれの要因、化学物質と電磁界を回避しなくてはならず、その症状はしばしば一致しています。
多種化学物質過敏症(MCS)は、一般の人々には耐えられる容量よりはるかに低い容量であっても環境中の化学物質に暴露すると多臓器反応を伴う疾病です
。この疾病の診断基準は、Archives of Environmental Health (vol. 54/3)に発表された10年間の多中心性研究の結果として、1999年に国際的な合意(訳注1)によって確立されました。
その合意はMCSを次のように定義しています。
[1]慢性的疾病である。
[2]再現性症状がある。
[3]極低レベル暴露で反応する。
[4]相互関連のない多種化学物質に反応する。
[5]原因が除かれると症状は改善あるいは解決する。
その後、6番目の基準として下記が加えられました。
[6]症状は多臓器で起こる。
MCSの発症は7つに分類される化学物質への暴露に関連していました。有機溶剤、有機塩素系農薬、カルバメート、有機塩素、ピレスロイド、水銀、硫化水素、一酸化炭素(M. Pall, 2009)。
反応の引き金となり得る物質には特に次のようなものがあります。
殺虫剤、農薬、消毒剤、洗剤、香水、脱臭剤、芳香剤、塗料、溶剤、接着剤、タール製品、木材防腐剤、建材、印刷物、歯科アガルガム、インク、ストーブ排煙、火災現場、バーベキュー、プラスチック製品、薬剤、麻酔剤、家具中のホルムアルデヒド、柔軟仕上剤及び新柔軟仕上剤、燃料、石油化学品に由来する全ての化学物質。
一般製品への化学的過敏性(Chemical sensitivity)はアメリカでは人口の15%、デンマークでは10%に見られますが、多種化学物質過敏症(MCS)はアメリカでは人口の1.5~3%です(G. Heuser , 1998)。
MCSは多くの疾病の原因となり、体の多くの系に影響を及ぼします。
腎臓系、呼吸器系、循環器系、消化器系、皮膚、神経系、筋骨系、内分泌-免疫系。
遺伝学研究は、生体異物の代謝能力の欠如に関係する CYP2D6、グルタチオンS-転移酵素、NAT2、又は SODの遺伝子多型をもった人はそのような疾病に遺伝的に罹りやすい傾向があることを示唆しています。
MCSは、症状が原因の除去により消えるので一般的アレルギーとしばしば誤解されますが、その動特性と推移は化学物質への耐性能力が永久に失われるので完全に異なります。
MCSを解決する治療法はありませんが、国際的に認知された最良の治療アプローチとして化学物質の環境的忌避が示唆されています。
この化学物質の忌避を行うために、MCS患者は居住環境や労働環境を、そしてレジャーの過ごし方を変えなくてはならず、一方、食物は有機で化学物質添加物や保存剤のないものでなくてはなりません。
化学物質忌避には、活性炭や木綿フィルター付きの木綿や紙マスク、セラミック酸素マスク、活性炭素フィルター又は逆浸透浄水器、住宅及び車用の全金属ケージ活性炭及びHEPAフィルター空気清浄器などの採用が役に立ちます。
金属に対するIV型アレルギー反応の場合には、歯科アガルガム詰め物の除去、又はその他の補綴(ほてつ)又は歯科医術用金属の除去によりMCS患者に改善が見られることが示されています。
実験的研究は、環境的に管理されたユニット内(訳注:クリーンルーム)の長期滞在を通じて、日々の理学療法や温熱療法により体内の毒物を低下させるよう設計された治療的アプローチ、そしてMCS患者に特に高い酸化ストレスを低減するための統合治療を示唆しています。
多種化学物質過敏症は症例毎にそして時間経過と共に非常に変化し、ある人は非常に重症なのに他の人はある場合には軽い症状なので、1999年国際合意はそれぞれの診断を次の点に付いてを定量的及び/または定性的に特性化することを勧告しています。
生活又は障害への影響(すなわち、最小限、部分的、全体)、症状の程度(軽度、中度、重度)、症状の発症頻度(毎日、毎週、毎月)、感覚影響(どの感覚器官が関与しているかの特定-嗅覚、三叉神経、味覚、聴覚、視覚、触覚、振動、痛み、熱さ、冷たさの知覚)、過敏性の変化(大、小)、慢性的及び特定の化学物質への暴露に対する刺激の通常レベルの耐性)。
イタリアでは、MCSとしての障害年金を100%受給している重症患者が既に数十人おり、またあるケースでは介護が必要な障害であると認定されていますが、これらは診断と障害の状態が疑いの余地がない進行した病状です。
一方、社会で可能な限り長く活動的な市民として留まるためにまだ働いている障害者の予防的保護及び認定の必要性があります。