・第5 審査会の判断の理由
1 本件対象保有個人情報について
本件開示請求は,異議申立人が行った労災保険請求に関する,検討会の
議事録に記載された保有個人情報の開示を求めるものであり,本件対象保
有個人情報として特定されたものは,別表の1欄に掲げる文書1ないし文
書3に記載された保有個人情報である。
なお,検討会は,化学物質に関する労災請求事案に対し的確に対応するために,厚生労働省において,化学物質に関する疾病に精通した専門家を参集し,医学専門的な分野からの検討を行うものである。
処分庁は,本件対象保有個人情報について,法14条2号及び7号柱書
きの不開示情報に該当するとして,その一部を不開示とする原処分を行っ
た。
諮問庁は,諮問に当たり,原処分で不開示とした部分のうち,一部を新
たに開示するとしているが,その余の部分については,法14条2号及び
7号柱書きに該当し,なお不開示とすべきであるとしている。
なお,異議申立人である開示請求者の保有個人情報が記載された検討会
の議事録が文書1及び文書2のみであり,文書3によって,当該検討会と
しての意見書が発出されていることについて,当審査会事務局職員をして,
諮問庁に確認させたところ,文書2の検討会以降,当該検討会は開催され
ておらず,事務局と委員との間で事務処理が進められ,検討結果がまとま
った段階で,当該検討会の座長に報告された後,当該検討会としての意見
書がまとめられ,文書3により,意見書が発出されたとのことであった。
このため,本件対象保有個人情報の見分結果を踏まえ,以下検討する。
2 保有個人情報該当性について
(1)諮問庁は,別表の2欄の文書1の①及び文書2の①に掲げる部分は,
法14条2号及び同条7号柱書きに該当すると説明する。
(2)当審査会において見分したところ,別表の2欄に掲げる文書1の①
の不開示部分のうち,2頁6行目ないし6頁29行目,15頁4行目18文字目ないし26頁16行目及び28頁29行目ないし31行目並びに文書2の①の2頁8行目ないし4頁6行目,5頁6行目ないし7頁13行目,7頁16行目ないし11頁27行目及び12頁27行目ないし14頁17行目には,異議申立人以外の第三者についての検討内容が記載されており,異議申立人個人を識別することができる情報(他の情報と照合することができることとなる情報を含む。)が記載されているとは認められないことから,これらの部分は,異議申立人を本人とする保有個人情報に該当しないと認められるので,当該部分を不開示としたことは,結論において妥当である。
3 不開示情報該当性について
文書1及び文書2の不開示部分について,諮問庁は,理由説明書及び補
充理由説明書において,別表の文書1の①及び文書2の①の各欄に掲げる部分は,法14条2号及び7号柱書きに該当し,別表の文書1の②及び文
書2の②の各欄に掲げる部分は,同条7号柱書きに該当すると説明する。
(1)当該部分のうち,文書1の①のうち6頁30行目12文字目ないし1
5文字目及び26頁17行目24文字目ないし30文字目については,異議申立人の氏又は氏名であることから,異議申立人である開示請求者以外の個人に関する情報であるとは認められず,さらに,これらの情報は,開示しても厚生労働省が行う労災認定に当たっての業務起因性の判断における事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとは認められない。
したがって,当該部分は,法14条2号及び7号柱書きに該当せず,開示すべきである。
(2)また,文書2の①のうち7頁15行目は,座長の挨拶であって,開示請求者以外の個人に関する情報とは認められないことから,上記(1)と同様の理由により,法14条2号及び7号柱書きに該当せず,開示すべきである。
(3)また,文書1の②のうち8頁32行目14文字目ないし17文字目及び27頁29行目21文字目ないし24文字目は,異議申立人の氏又は氏名等であり,また,文書1の②のうち8 頁34行目8文字目ないし22文字目,28頁27行目及び28行目並びに文書2の②のうち15頁2行目は,検討会を進行する上での事務局あるいは座長の説明であり,これを開示しても,厚生労働省が行う労災認定にあたっての業務起因性の判断における事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとは認められない。
したがって,当該部分は,法14条7号柱書きに該当せず,開示すべきである。
(4)上記(1)ないし(3)を除いた部分については,労災請求に対する
業務起因性の判断に係る委員の意見及び事務局の発言が記載されており,本件労災請求事案における機微な医学的判断について,委員及び事務局が率直にやり取りした部分であると認められる。
化学物質過敏症等として労災請求された事案について,本検討会にお
ける意見を踏まえて労災認定が行われることから,これらの事案に対して,本検討会における意見が影響を及ぼすものであるところ,業務起因性の判断に当たっては,本検討会の委員が率直な意見を交換するとともに,議論の中立性が確保されることが必要である。このことに鑑みると,本件労災請求事案についての本検討会における意思決定は既に終了しているものの,発言者たる委員名が全て開示されていることを踏まえると,委員個人の意見が記載されている本件不開示部分を開示することになれば,本検討会における今後の審議において,労災請求人に自分の意見が明らかになることを意識した委員が労災請求人にとって不利益な発言を控えたり,委員及び事務局が率直な発言を控えたりするなど,委員等による率直な意見の交換又は意思決定の公平性及び中立性が損なわれ,厚生労働省が行う業務起因性の判断における事務の性質上,当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると考えられる。
したがって,当該部分は,法14条7号柱書きに該当し,文書1 及び
文書2の各①欄に掲げる部分については,同条2号について判断するまでもなく,不開示とすることが妥当である。