・2、環境と遺伝子(遺伝的背景)との相互作用~自
閉症、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)と環境について
P. Grandjieanらは、発達途上にある脳にダメージを及ぼす可能性のある物質を202種類リストアップしました(Lancet, 368:2167-78,2006)。その中で特に研究されているものとして、鉛、水銀、ヒ素、有機塩素系化合物、トルエンがあります。
有害化学物質による健康障害は、以下のような項目があげられています。
①有害金属症候群(Toxic Metal Syndrome)、
②化学物質による脳傷害(Chemical Brain Injury(K.H.Kilburn))、
③胎児期・脳の発育期のばく露による脳のダメージ、
④成人の認知症・パーキンソン病発症との関連性などがあげられます。これについてはKilburn 先生が本を書いています。
3、子どもに対する影響
子どもは高感受性集団として、環境因子に対しては高い感受性をもっています。
防虫畳のなかには有機リン系農薬のフェンチオン図2 図3 図4 図5が塗られたものがあります。
フェンチオンは、チオン型が体内でオキソン型に変化したもので、それが毒性を持つことになります。フェンチオンを使用した防虫畳によって浸潤性紅斑が出るおそれがありますが、畳を変えると治ります。
有機リンは、免疫系と神経系に影響をあたえるものでもあります。
さらに、有機リンはアセチルコリンエステラーゼを阻害します。
有機リンによって縮瞳が生じ、サリンの被害者の中には未だにその状態が続いている人がいます。
また、化学物質は、言語性IQ(VIQ)、動作性IQ(PIQ)、学習障害、注意欠陥・多動性障害などに影響を与える可能性があります。
例として、PIQと室内パラジクロロベンゼン濃度を調査した例を図6に示します。
室内のパラジクロロベンゼンの濃度が高いと、PIQが低くなります。
総揮発性有機化合物量(TVOC)とIQ、VIQ、PIQ平均値の比較を図7に示します。
明らかにTVOC濃度が高い方がIQおよびVIQもPIQも低いことがわかります。
室内パラジクロロベンゼンの平均濃度の高低による各動作(1.絵画完成、2.符号、3.絵画配列、4.積み木、5.組み合わせ、6.記号探し、7.迷路)のPIQについての研究からも、パラジクロロベンゼンの濃度が低いグループの成績が良いことがわかります。
これらは、平成12年~平成18年度厚労省のシックハウス研究班(研究班長・石川哲北里大学名誉教授)で報告されたものの一部です。
現在私が研究班長である厚労省、環境省の研究班においても最新の研究が進められていますが、その成果についてはまたお話したいと思います。
外国での研究によると、化学物質にさらされて子どもが突然異常な行動をするようになったり、字が上手に書けなくなったりすることが報告されています。
例えば、化学物質ばく露の有無で描く絵の質に変化が生じたりします。空気が悪い家に住む子どもはPIQが低いといわれます。
視覚系の発達には化学物質の影響があることが明らかです。
床のクリーニングの液にばく露した5歳の子どもが字を上手に書けないとか、行動が乱暴になるなど異常行動をするといった例があげられます。
農薬ばく露地域に住む子どもの発達について、エリザベス・ジレットらはメキシコ北部のヤキ谷で、農薬(有機塩素、有機リン系、ピレスロイドなど)多使用地帯と農薬を使っていない地帯の4~5歳の子どもたちを調査しました。農薬多使用地帯で生まれた新生児の臍帯血・母乳からは複数の有機塩素農薬が検出されています。
農薬にばく露した子どもは元気がなく、30分の記憶テストが悪く、人間の絵を年齢相応に描くことが出来なかったと報告されています。