4、高い感受性は何に依存するか?
4・1.遺伝要因を追求する:候補遺伝子、関連遺
伝子の調査実例:室内空気汚染による健康障害を例にとってSHS(シックハウス症候群)に関連した網羅的遺伝子発現解析(網羅的遺伝子発現から何がわかるか?)
旭川医科大学の吉田貴彦教授らのグループとの、文部科研費・厚生労働科研費による研究成果の一部をご紹介します。
Human Whole Genome Oligo Microarray(Agilent、約44,000遺伝子)を利用した遺伝子発現プロファイルの作成を行いました。
半数以上の患者でコントロール群(健常者群)に対して共通して増加ないし減少傾向を示した遺伝子の抽出を行ったところ、28遺伝子を選び出すことが出来ました。
その中で、患者群のみに変動が見られた遺伝子は、次の8種です。
① cyclic AMP phosphodiesterase、② CD83、③NfkB、④ CXCL2、⑤ angiotensin/vasopresionreceptor、⑥ ICAM1、⑦ TNFα-induced protein、⑧ Dopamine receptor
今後さらに被験者数を増やして結果の精度を上げる予定です。
4・2.遺伝子が違うことによる個人差の違い
遺伝子の違いで病気にかかりやすかったり、薬が効きやすいことがわかってきました。
例えば、NTE(神経毒性エステラーゼ) 活性の低い動物は、有機リン系農薬に敏感であり、多動性障害との関連性が示唆されています。人では、NTE活性の個人差は6倍あります。
環境化学物質誘導遅発性神経障害にNTE発現機構の重要性が指摘されています。
しかし、実際には活性の高い人が影響を受けやすい例があり、その場合、おそらく代謝物による影響のためと思われています。
その他にSNP遺伝子(SNP:一塩基突然変異)のエクソン2の頻度について、統計学的に有意差を示す遺伝子型(C/C)が見いだされました。
また、化学物質(薬物)代謝酵素のグルタチオンーsートランスフェラーゼ(GST)(第2相代謝酵素の一つ)が少ない人がいます。
そういう人は有害物質の代謝が困難な人といわれています。
このように化学物質による健康影響の研究は遺伝子レベルで検討する段階に入っています。
5、環境因子と健康影響の研究デザインはどのように行うか
環境因子と健康影響の研究デザイン(図8)については、まず、①有害性の特定、②量(濃度)-反応(影響)関係、③ばく露評価、の3点から細胞レベル・実験動物レベルでのシュミレーションを行い、さらにヒトについて集団検診と疫学調査評価を行ってから、④リスクの特性化を行い、エンドポイントとして⑤優先順位をつけた対策への科学的提言を行います。
環境因子と健康影響の研究デザインは、環境生命科学分野では「リスク評価法」と呼ばれているものです。
6、最後に
坂部先生は、講演で以上に紹介したほかに、化学物質過敏症の診断の一つとしてf-MRIなどの機器を使用した脳の状態などについて言及されました。
また、患者の主観的な症状を評価するためにミラー先生が開発されたQ E E S I(QuickEnvironmental Exposure Sensitivity Inventory)も紹介し、以下の3つの報告書を紹介しました。
①『平成25年度環境中の微量な化学物質による健康影響に関する調査研究業務報告書』(環境省請負業務、平成25年3月、学校法人東海大学)
②『平成24年度環境中の微量な化学物質による健康影響に関する情報収集業務報告書』(平成24年3月、一般財団法人化学物質評価研究機構)
③『平成23年度環境中の微量な化学物質による健康影響に関する情報収集業務報告書』(平成23年3月、一般財団法人化学物質評価研究機構)
これらの報告書からは、従来の毒性評価とは異なり、遺伝子を利用する研究評価が進展していることがわかります。 (報告者 小椋和子)