Q9 高田先生は2005年に、“InternationalPallet Watch(IPW)”(注3)を設立し、世界規模で海洋汚染の調査分析をされています。
このプロジェクトを始めたきっかけには何があったのでしょうか?
A9 2001年に「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」が採択され、2004年に発効しました。
この条約は、POPsの国際規制を強化し、その環境への放出を防止することを目的とし、地球規模でのモニタリングを行っていくことの必要性を強調しています。
しかし、世界規模でのモニタリングにはコストがかかり、専門家しか参加できないという問題があります。
そこで、私たちは、市民参加によって低コストで世界規模でのモニタリングを行うためにIPWを立ち上げました。
Q10 IPWの活動にはどのような意義があるとお考えでしょうか?
A10 IPWは、世界各地の市民に協力を募って、海岸でレジンペレット等のプラスチック試料を採取し、それをエアメールで東京農工大の私の研究室に送ってもらい、分析を行うというプロジェクトです。
このプロジェクトによって、世界各地のプラスチック試料を集めて分析を行うことができています。
現在、40?50カ国の200~300地点をカバーしています。
ココス島、大西洋セントヘレナ島、カナリア諸島などの大洋の真ん中にある離れ小島の試料も入手することができ、これらの大洋の真ん中の島へ流れついたプラスチックにもPOPsに高濃度に汚染されているものがあることが判りました。
また、IPWのスタート当初、私たちは低コストで世界規模のプラスチック汚染のモニタリングを行うことを目的としていましたが、IPWを続けているうちに、参加する市民の多くが海洋のプラスチック問題に関心を持っており、プラスチックが環境にどのような影響を与えるかについて知りたがっていることに気づきました。私たちはIPWが市民に対する環境教育のツールとして使えると考えました。
そこで私たちは2011年頃から、IPWの目的に、
①プラスチックによる海洋汚染のモニタリングの他に、②海洋のプラスチックが有害物質の“運び屋”になっていることを市民に知らせるということを加え、その観点からの活動も積極的に行うようになりました。
環境教育には、環境問題に対するモチベーションを維持するために環境保全活動に自分が参加しているという感覚が必要です。
IPWは海岸に行ってプラスチック片を拾うだけですので、小学生などの小さい子どもでも簡単に参加することができます。
実際、アメリカのある小学校は3年間、毎年同じ海岸からプラスチック試料を採取し、試料とともに海岸清掃活動の記録や手紙などを一緒に送ってきてくれます。
私たちは、プラスチック試料を送ってくれた人たちには必ず研究結果をフィードバックしています。
小学生に対しては、先生に手伝ってもらいながら、小学生でもわかるような内容でレポートを書いて送ってあげています。
IPWは現時点では英語のホームページしかありませんので、残念ながら日本からの参加はあまり多くありません。これから日本語のホームページを開設して、日本の人々や子ども達にも参加してもらいたいと思っています。
(2013年5月27日の東京農工大学農学部環境資源科学科高田秀重教授の研究室でのインタビューを広報委員が構成しました。)
注1 「海洋環境保護の科学的側面に関する専門家会合」(GESAMP)とは、MO(国際海事機関)、FAO(国連食糧農業機関)、UNEP(国連環境計画)、UNESCOIOC(ユネスコ政府間海洋学委員会)等八つの国連機関の支援をもとに活動している科学者の集まり。英文の正式名称は、IMO/FAO/UNESCO-IOC/WMO/WHO/IAEA/UN/UNEP Joint Group of Experts
on the Scientific Aspects of Marine EnvironmentalProtection。
注2 ワーキンググループの詳細についてはこちらを
ご参照ください。
http://www.gesamp.org/work-programme/
workgroups/working-group-40
注3 IPWのホームページはこちらをご覧下さい。
皆さんも是非プラスチック採取にご協力ください。
http://www.pelletwatch.org/