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化学物質過敏症(3)消毒薬や麻酔で体調悪化
名古屋市に住む脳神経外科医の前田茂さん(77)は、今年8月、甲状腺がんが見つかった。
進行していたが、主治医は手術が可能と判断した。
しかし、入院治療には高いハードルがあった。前田さんは化学物質過敏症を患い、消毒薬などでも体調を崩すため、通常の手順では手術や入院が難しい状態だったのだ。
前田さんは、4年前に化学物質過敏症を発症した。
診察室で香水や整髪料をつけた患者を前にすると、顔などの皮膚がピリピリと痛み、吐き気や思考力低下が起こるようになった。
近くの人がかむミント入りガムでも気分が悪くなった。
「庭で育てるミントの葉のにおいは大丈夫なのに、合成香料のミントは耐えられない。おかしいと思い、人に相談して初めて知ったのが、化学物質過敏症という病気でした。長く医師をしていたのに、自分の身に降りかかるまでは全く関心がなかった」
十分な診療ができないと判断し、14年続けた外科医院を閉めた。
東京の医療機関で化学物質過敏症と診断され、無農薬の食材を使った食事や、散歩などの適度な運動を続けた。
体調は安定してきたが、今度は甲状腺がんに襲われた。
手術を受ける病院の医師らに化学物質過敏症の説明をし、理解を求めた。
麻酔は通常のものが使えたが、アルコールアレルギーの人に用いる消毒薬を使うなど、細かな対策が行われた。
手術直後も集中治療室の使用は避け、よく換気した個室を使った。
シーツやタオルなどは、無添加せっけんで洗ったものを自宅から持ち込んだ。
手術はうまくいき、10日ほどで退院できた。
化学物質過敏症でも使える薬や麻酔はある。
国立病院機構・盛岡病院副院長の水城まさみさん(呼吸器・アレルギー科)は「病院が工夫すれば、けがや病気の手術はできる」と話す。
化学物質過敏症の発症後、乳がんの手術を受けた経験を持つ埼玉県の青山和子さん(69)は、局所麻酔薬の多くが使えない状態だったが、外科医と麻酔科医が協力し合い、詳細に検討して青山さんに合った麻酔薬を選び、手術を乗り切ることができた。
青山さんは「手術はもう受けられないとあきらめている患者もいます。
でも方法はあるので、化学物質過敏症に詳しい医師に相談してほしい」と話す。
だが、この病気の患者の中には、歯科を含む医療機関に入ることすらできない人もいる。
通院している前田さんと青山さんも「様々な化学物質が充満する待合室は耐え難い」と口をそろえる。
診察までの間、患者が待機できる場所の確保など、医療機関の配慮が求められる。
(2013年12月12日 読売新聞)